FINAL GAME
6
3つの影が建物の背後から飛び出し、真っ直ぐ綾都の方へと向かう。
俺が気付いた時は既に遅く、助けようと考える間もなかった。
瞬間、聖王の背後から一つの小さな影が飛び出し綾都と例の3つの影の間に立ちはだかった。見間違えるはずが無い。色素の薄い、小さい子供。
「遊来!」
俺の叫び声は綾都の悲鳴にかき消された。
3匹の、まるでシェパードとシベリアンハスキーを足したような大きな犬が低いうなり声をあげて彼を狙っていた。遊来は落ち着いた素振りでポケットから何かをとりだすと、曲がり角の向こうに思いっきり投げた。獰猛な犬たちはすばやい動きでそれを追いかける。
「今のうちに、早く」
遊来は綾都の腕を引っ張ると、犬が向かった道と反対方向に走り出した。綾都は突然現れた少年に少し戸惑った顔をしたが、意を決したように頷くと何も聞かずついて行く。
足を止めずに遊来は上を見上げた。屋根の上で呆然と佇む俺と目が合う。遊来の小さな口が声を出さずに動いた。
た・の・む。
そして二人で角を曲がり、見えなくなる。
「あいつ……。楽な方を選びやがって」
誰もいなくなった道路に、俺は飛び降りた。すぐに犬たちが戻ってくる気配がする。
「ま、あとでお仕置き追加だな」
そう呟きながらついに姿が見える程まで帰ってきた犬達を見つめる。間近でみると本当に大きい。こんな奴らにうなり声をあげられたらどんな力自慢の男でも我を忘れて逃げ出してしまうだろう。
まるで他人事のように考えながら全速力で走ってくるそれらを冷静に見つめると俺はまず、先頭を走っていた犬の眉間に拳で一発おみまいした。がつん、と鈍い音がして、犬は地面に倒れこむ。
「――っ?」
俺は思わず右手の甲を擦った。想像より痛いし、なにより生き物の衝撃ではない。もっと硬い感覚がしたのだ。
「まさか」
振り返りながらもう一匹の腹部に蹴りを入れる。そいつが思いっきり吹っ飛び、塀にぶち当たると、なんと塀の方にヒビが入った。ぱらぱらと粉が舞い落ちる。
俺は戸惑いながらも倒れた二匹目には見向きもせずに蹴り上げた足が地面につくやいなや、瞬発力をフルに使い、通り過ぎようとした残りの一匹の尻尾を掴む。ふさふさした触感の下に、安物の毛皮では覆い隠せない冷やりとした感覚が伝わった。
そのまま、その尻尾を思いっきり引っ張った。ばちり、と電撃の走る感覚がして、尻尾が取れる。取れた尻尾の先には電気を帯びた赤や黒のコードがバチバチと音をたてた。
エネルギーが全身に行渡らなくなったその犬もどきは、ふらふらと2,3歩歩き、ばたりと倒れこんだ。
ようやくひと段落したのを確認すると、俺は手を叩きながら辺りを見回した。犬改め犬の姿をした機械の残骸が3体。一番初めに倒した犬に近づき、口に加えていた機械を乱暴に奪い取る。遊来の投げたソレは何かの端末のようだった。恐らく、機械仕掛けの犬達の目標を狂わせる仕掛けでもしてあったのだろう。その割りにはすぐ戻ってきたようだったが。
つまり、はなから俺を当てにしてたんだな、あのヤロウ。
俺は悪態をついて機械を握りつぶした。
しかし、一体なぜ綾都が狙われなければならないのだろうか?
俺が知る限り、綾都は至って普通の少年だった。
もちろん、お坊ちゃま学校の安城学園に小等部から通うくらいだからそこそこの家柄ではあるものの命を狙われるような大金持ちでも怪しげな商売をしているわけでも無いはずだ。
この近所で一番の名家といえば、故、香月・吹雪・故、蓮華兄弟の更科家くらいだし。
「いや。だから――か?」
そういえば、吹雪は更科家で唯一の息子になったんだよな。
考えながら、一先ず俺はその場を離れることにした。
機械の残骸、遊来なら面白がって解体したり部品集めたりしろうだけど、俺にはただのゴミだし。片付けるのも誰かに見つかって言い訳するのも面倒だ。
とりあえず遊来たちが向かった方向に足を踏み出した途端、一人の少年と角で鉢合わせした。
「げ」
「……お前、なんで…」
目の前にいたのは、突然の事に驚きを隠せない表情の一太。
奴は俺の後ろに散らばっている残骸をみて、怪訝そうに眉を潜めた。
一方俺は、すぐに思い当たることがあって一太の腕を掴んだ。
そういえば、こいつもワケ分からない“ゲーム”の登場人物だったよな。しかも小等部からずっと安城学園に通っているときてる。
「なあ、聞きたいことあるんだけど?」
――まずは、お前の学校に死んだ筈の少年が通っているかどうか。
「俺のカラダ、いつもみたいに好きにしていいからさ、ちょっと付き合ってよ」
俺は、一太に向かってにやりと笑ってみせた。
ゲームは情報収集が命だからさ。なあ?
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