FINAL GAME 2 「えっと……これは、」 「蓮華様、早くしないと遅刻してしまいます」 「あれ?もうそんな時間?」 情けなくも弁解しようとした俺の横を通りすぎ、雄大は蓮華へと向き声をかけた。まるで俺の存在などないかのような振る舞いだ。 「車を用意させます。すぐ着替えて下さい」 「待てよ。蓮華はまだ朝食を食べてないだろ」 蓮華は朝が弱い。その為、沢山は食べられない。だからと言って朝食を抜けばすぐ貧血を起こしてしまう。 俺の言葉に雄大は眉を寄せた。その横で蓮華がぷっと噴き出す。 「あ……」 そこで漸く気づく。 馬鹿か俺は。蓮華は機械だといつになったら理解するんだ。 「そうだね。食べて行こうかな」 「蓮華様、」 「今日は車はいいや。聖王と一緒に行くよ」 恥じ入る俺の傍で蓮華が微笑む。雄大が文句を言いかけたが、それは蓮華によって制された。 今にも舌打ちしそうな雄大のオーラがひしひしと伝わってくる。しかし、流石と言うべきか彼は俺を殴り飛ばしたりはしなかった。 「……ハンバーグ」 「は?」 「明日、この家でハンバーグを作れ。それで勘弁してやる」 「今日じゃなくて、明日? なんだ雄大、そんなに食べたいのか?」 「ふざけるな。只の嫌がらせだ」 「……?」 意味がわからない。雄大がそんな可愛らし物を欲しがるようには思えないし、第一、本当に欲しかったら今からお弁当でも買えばいい話だし。 俺が首を傾げていると、雄大がギラリと睨んできた。 「何だ。文句あるのか」 「いや、別に……それだけ、か?」 墓穴を掘るとは知りつつも、尋ねずにはいられない。俺は未だに乱れたままの自分の服とパジャマ姿の蓮華を見る。すると雄大は軽く鼻を鳴らした。 「何かあった訳ではないだろう」 ……。確かにその通りだけど。なぜ分かったのかと感じるより前に雄大は言葉を続けた。 「本命には手を出せないタイプの人間だからな、お前は」 そしてすぐに部屋を出ていく。滅多に物音をたてない彼がパタンと人並みの音をたてて扉を閉めたのは精一杯の苛立ちの表現かもしれない。 ※※※ 「――だね」 「え?」 「いい天気だね、って言ったの 」 聞いてなかったんだね、と頬を膨らます蓮華にごめんと謝ってから空を見上げる。確かに梅雨の時期には珍しく今日は晴れている。学校なんてサボって布団を干したい気候だ。遊来は訳のわからない研究に没頭していたら、絶対布団なんて干さないからな。 パンに目玉焼きという簡単な朝ご飯を食べた俺達は、二人並んでのんびりと登校していた。たまにすれ違う学園の生徒が俺らを見てぎょっとしているが俺も蓮華も全く気にしない。 「もう、何を考えてたの?」 蓮華の問いを軽く笑って流した俺は、先ほど雄大に言われた言葉を思い出していた。 ――本命には手が出せないだろうからな 「本命……?」 楽しそうに隣を歩く金髪の髪を見つめる。俺は蓮華の事が好きだ……好きじゃなきゃいけない。いや、誰よりも好きだ。けれど、なぜ雄大がわざわざそんなことを口にするのだろう。まるで、俺が蓮華を好きでいて欲しいかのような―― 答えが出ないまま、学園についた。門を入った所でくるりと俺の方を向きなおった蓮華はそういえば、と話題をふる。 「明日ハンバーグ作ってくれるの?」 「あ、ああ」 「ふふ、楽しみ」 鞄をぶんぶん振って喜びを表現する蓮華。昔の彼は、こんな風にご飯で喜ぶことなんてあっただろうか。おやつならともかく、小食な彼はそこまでご飯に興味は無かったように思う。それとも――俺が作ったものなら、何でも喜んでくれたのだろうか。 「……聖王の考えている事、当ててあげよっか」 俺に背を向けたまま、ぽつりと蓮華が呟く。そのまま、俺の返答を待たずに言葉を続けた。 「昔の『蓮華』と今の僕、どっちが好きなのかって考えてるんだよ」 「っ、」 「――――なんてね」 じゃあ、と軽く手を振って蓮華は先に校舎へと向かった。彼が足を進めるたび、周りの生徒が道を譲っていく。 「……俺は、」 1人で立ちすくむ俺は、蓮華の姿を見つめていた。そう、周りの生徒と同じように。 さっき、蓮華の言葉に俺の返答が詰まったのは答えられなかったからじゃない。寧ろその逆。 ――昔の『蓮華』と今の『蓮華』とどっちが好きか ――今の君に決まってる 即答しかけた自分が、怖かったからだ。 「雄大なら、答えは決まってるだろうな」 あいつなら、迷わず昔の蓮華をあげるだろう。それが当然なんだ。あくまでオリジナルは昔の蓮華で、今いるのは只の機械なんだから。 ならば。 今更になって蓮華に惹かれている俺は、『蓮華』を裏切った事になるんだろうか。 [*前へ][次へ#] [戻る] |