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FINAL GAME
10
 爽やかな朝。
 何が爽やかって鳥がチュンチュン鳴いているから。
 どうせ寮の備品で、電気料金学校持ちだからとクーラーかけて眠ったのに、だから窓も全部きっちり閉めたのに、それでも聞こえる爽やかな鳴き声。俺に喧嘩を売っているかのような爽やかな鳴き声。

「……鳥のから揚げとか作りたくなってきた」

 もちろん今外にいて俺の睡眠を妨害しているスズメ達を食べる気はない。料理はするけど。食べるのはきっと一太か遊来だ。

 欠伸をかみ殺しながら、制服に袖を通す。ネクタイも新品同様、綺麗にのり付けされていた。
 驚く事に、俺の制服はクリーニングされて寮部屋のドアノブに架かっていたのだ。さらに付け足すと、昨日から一太はこの部屋に帰ってきていない。恐らく両方共、相模先輩の采配だろう。つくづく気の回る人だと感心する。

 時計を見れば、登校時間にはまだ早すぎた。それでもやる事がないのでペットボトルのお茶だけ飲んで部屋を出れば、ため息をつきたくなるような白い空間が目の前に広がる。同じ扉がずらりと並ぶ単調な造りの建物。一瞬、自分がテレビゲームの中に入り込んだのではないかという錯覚を覚えた。

 ゲームの世界なら、簡単だ。
 選択肢から適切な物を選び、失敗したらリセット。
 たった一つのゴールに向かい、結末はきっとハッピーエンド。主人公には危害が及ばない。及んだとしても、無事に切り抜ける仲間がいる。
 そう、仲間が。

 そんな事を考えていた俺の背後で、人を馬鹿にしたような声が聞こえてきた。

「あっ、発見〜。昨日は良かったよなぁ。おい、また続きしようぜ」

 目の前に現れた見覚えのある不良達の姿に思わず苦笑してしまった。……そういえばこの「ゲーム」の主人公は俺じゃなくて吹雪だったのだ。

「……結局俺は、こういう役割なんだよな」

 一人呟いて振り返えれば、目の前にいたのは確かに昨日の奴だった。髪が緑色でカビだか苔だか分からない状態だったからよく覚えている。確か、2回目に俺を犯した奴。


 どうやら一人らしいその男は、にやにやと下卑た笑いを浮かべながら俺の肩に手をかけてきた。俺はそれをそっけなく振り払う、と男が予想外とばかりに驚いた顔をしているのが視界に入る。俺が大人しくついて行くと思ったのか? 馬鹿か。

「馴れ馴れしく触らないでくださいよ」

 淡々と、しかしはっきりと聞き取り易く言い放つと、彼の表情は驚いた顔から一変して怒りを滲ませた。

「なんだ? 昨日はノリ気で股開いてたくせに」
「別にノリ気ではありませんでしたが。あと、昨日が大丈夫だったから今日も大丈夫という自信はどこから来るんですかね。それとも何ですか、貴方は『一度手をつけた相手は永遠に俺のオンナ』とかいう痛い感覚の持ち主ですか? そんな事が通用するなら恋愛に別れなんて存在しませんよ」
「……テメェ」

 そいつは拳を握りしめると急に殴りかかってきた。朝から元気なようで何よりだ。俺は一先ず拳をかわす。その隙に、ポケットに入れてあったペンを取り出した。ノック式のペンを出す要領で、ペンの先を押す。
 瞬間、襲って来た奴の顔面に粉が降りかかった。睡眠効果のある粉だ。俺は自分で薬を吸い上げて仕舞わない様、腕で口と鼻をガードする。息も留めておいた。

 即効性のあるその薬を浴びた男はあっさりとその場に倒れこむ。1回しか使えないペンはその場に放り投げた。

「……結構使えるかもな。今度は催涙ガスバージョンも作って貰おうか」

 このペンの製作者である遊来の為に、薬の効果を確認する。薬を吸ってから倒れるまでは5秒。眠っている間は叩いても蹴っても意識はなし――と、実際目の前の男の腹を蹴りながら確認する。後で報告しておいてやろう。

 とりあえず用事は済んだので、倒れた生徒はそのままにその場を離れようとした時、今度は違う声が俺を呼び止めた。

「なんで倒しちゃったの? 昨日みたいな場面がみれるのかと期待したのに」

 柱の陰から出てきたのは、この学校の会計である高科だ。どうやら、俺の行動をじっと見ていたらしい。朝早くからご苦労な事だが、それはまだいい。気になるのは、コイツが『昨日』の事を知っている事だ。
 俺の疑問に気付いたのか、高科は俺を舐めるような目で見つめながらにやりと笑みを浮かべた。

「すっごくエロかったよね、昨日の聖王って。AV女優も真っ青。隠しカメラから丸見えだったよ、君がよがりまくってる所」
「カメラがあることをバラしていいのか。隠しカメラの意味ないな」

 俺の言葉に、「突っ込む所ソコぉ?」と高科は楽しそうに笑う。それから、ゆっくりと俺に近づいてきた。

「助けてくれれば良かったのに、なんて言わないよね? だぁって、こういうのを対処するのが風紀の役目でしょ?」

 わざわざ俺の耳元で囁く。別に助けろなどとは思わない、俺が選んだ事だ。

 ただ。
 生徒会会計(こいつ)に知られているって事は、香月も昨日俺がどんな目にあったのか知っているのだろうかと疑問に思った。
 もし知っているのなら、何故何も言ってこないのだろうか。

「何考えてるの?」

 高科の手が腰に伸びてきた感触で我に返った。気が付けば、俺は壁を背にして奴に抱きすくめられるような形になっている。あまりいい体勢とはいえない。
 少しだけ俺より背の高い高科に目線を合わせれば、楽しそうに笑う男前のアップ。……そう、まるでネズミを前にした猫のように楽しそうな笑み。
 大きな手が躊躇もせずに制服をまさぐって、俺の背に触れる。せっかく相模先輩がクリーニングに出してくれたのに。

「高科が、何故生徒会の一員なのか考えていた」

 ベルトを緩められ、ずれかけたズボンの中に手を入れられるのを感じながらも、俺はそのまま動かず目の前の男を見つめながら口にした。
 俺の言葉が意外だったのだろう、一瞬だけ奴の手が止まる。

「あー……俺の親、更科関係の仕事だから」
「…………」

 こいつもか。
 まあ、この界隈で更科関係の仕事に就いていない方が珍しいのだけど。とくにこの学院なんて更科の恩恵だけで成り立っているといっても過言ではないくらいだ。だが、こいつの言い方だと、高科の親はかなり重要な位置に就いているようだ。でないと生徒会会計に任命される訳が無い。

……俺の両親、研究馬鹿だったからな。あんまり人事関係の話は聞いてなかったんだ。

「質問はそれだけ?」
「っ!」

 俺が黙ったのを見た高科は、イキナリ手を動かして俺の前を握りしめた。男の性(さが)というもので、条件反射的に身体が強張る。
 そのまま右手で俺の前を、左手で俺の後孔を刺激しながら会計は俺の耳に舌を這わせた。

 今更だけど、ここって寮の廊下だよな。今から皆学校へと向かうために出てくるんだよな。何その公開プレイ。そういうのに興奮する趣味は持ちあわせてないんだけど。
 しかし、この変態はどうやらそういうご趣味らしい。人が来るかもしれないなんて事は全く気にせず、今度は俺の口に舌を這わせた。閉じたままの俺の口に無理矢理舌をねじ込ませて唾液を流し込む。

「質問は……もう一つある」

 誰がお前の不味い唾液なんか飲むかと、口端から垂れ流してやりながら顔を向ける。
 それにしても、こいつ顔がいいだけあって結構ウマイ。その証拠に俺の後孔にはすでに2本の指が出し入れされているし、前だって先走りが溢れてきている。こんな短時間でそこまで感じさせるなんて相当手馴れている証拠だ。

「更科の権力が背景にあるなら……お前じゃなくても吹雪がいるだろう」

 そう、本家の吹雪を差し置いて高科が会計になるなんて変じゃないか。
 俺の言葉に、高科はきょとんとした顔をしてみせた。そんな顔をされる事に、今度は俺が目を丸くする。何か、変な事言ったか?

「吹雪って……何言ってんの、お前。あいつは更科から追い出されてるじゃん。ほら、数年前に事件を起こして――――」

 高科が説明しようとした時、携帯が鳴った。最近よくテレビで流れる、新人女性歌手の曲。携帯のディスプレイを確認した高科は、「げ。甲斐だ」と小さく呟いた。
 どうでもいいけど、携帯を握っているその右手、俺の精液ついてるんだけど。携帯はちゃんと防水加工なのか? 知った事じゃないけどな。

 そのまま電話に出た会計は、はいはい、だの、分かってるって、だのを繰り返しながら挨拶もなしに俺の前から去った。公開プレイの後は放置プレイですか、そうですか。

「……で、中途半端にイキかけているこの現状をどうしろと」

 どろどろになっている自分の下半身に目をやり、俺は壁にもたれ掛かりながら舌打ちしたのだった。


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あきゅろす。
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