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FINAL GAME
3
 ――風紀委員にしてください

 そう告げると、俺は驚いたまま固まっている青井に軽く口付けた。
 肩に腕を回して、まるで甘えるように密着する。

「別に、そこまでしなくても風紀くらいにしてやるけどな」

 どうせ、なり手のなかった委員だし――と続ける青井を、俺は首を振って制する。

 確かに、立候補すれば空いている席につくことは可能だろう。
 けれど、転入したばかりの自分がそれをして尚且つ認められるのは特別な事だということは分かっていた。
 特別、それが大抵の場合は好意からなることも。

 そんなものは、俺には必要ない。
 他人からの好意なんて最も避けるべきものだった。
 俺が好意を寄せるのも、寄せられるのも世界でただ一人だけ。
 目を閉じると、一瞬浮ぶのは茶色い髪を持つ柔らかい微笑みを浮かべる人。
 けれどそれをすぐに打ち消して、目が冴えるような金色の髪の少年に置き換える。

 ただ一人――その人は蓮華でなくてはならない。


「俺が、嫌なんです」

 お互いの吐息がかかる位の距離で、まっすぐ見つめ合う。
 特別ではなく、取引を。
 好意ではなく、打算を。
 でないと、蓮華とのゲームを壊してしまうことになるから。

「それとも俺だと、不満ですか?」

 見上げるような体勢でそう尋ねると、今度は青井の方から近づいてきた。
 近づくにつれ強くなる、深い海のような香水の匂い。
 コンタクトで色を変えた茶色の瞳を確認したところで、俺は目を瞑った。

 お互いの唇が触れたと思ったら、すぐに熱い舌が入りこんできた。
 ほんの微かに感じる、タバコの香り。
 ひょっとしたら、学校では禁煙していて家では多少吸っているかと思わせるほど微かな匂いがなぜか心地よかった。
 くちゅりと絡み合ったお互いの舌から唾液が流れる。
 お互いのが混じったソレを飲み込んでいると、俺の腰を支えるように手が回った。

「ほんっと、手馴れてるよな。ガキのクセに」
「俺、初めてですよ?」
「真面目な顔でバレバレの嘘つくな、馬鹿が」
「じゃあ、先生で2人目です」
「あー、はいはい」

 もうお前の言う事は信じないとばかりにおざなりな返事をしながら、青井は俺のネクタイを解いた。せっかく優等生よろしく真面目に着ていた制服のシャツがズボンから出されて、服の間から大きな手を入れられる。

 ……2人目っていうのは、本当なんだけどな。

 俺、一太としかした事ないし。
 そういった行為は勿論、キスだって他の人とはした事がない。
 そもそも、なんで俺は一太と体を重ねる事になったんだったかな。

「おい、何ぼんやりしてるんだよ」

 ふと、過去の事を思い出していたら心持ち不機嫌な声に引き戻された。

「あー、ええ。感じてますよ、ちゃんと」
「……嘘くせぇ」
「嘘じゃないですよ。もう大人の魅力にやられそうです」
「………………はぁ」

 何が不満だったのか、青井はそれ以上突っかかってこなかった。
 その間にも俺のベルトは外され、ズボンだけでなく下着まで下ろされて体中を愛撫されている。しかも青井自身もいつのまにか上半身裸という手際の良さだ。
 こういう服の脱がせ方っていうのも、経験で培われていくものなんだろうか。
 一太とする時は俺が自分で服を脱いじゃうから、きっと奴は上手くならないだろうな。まあ、一太も他の人相手ならかいがいしく脱がせたりするのかもしれないけど。

 抱き合ったまま何度か口付けを交わしたり、体を撫でられたりしている内に少しずつ自身が熱を持ち始めているのが分かった。生理現象だから、仕方ない事だ。
 立ったままの体制で青井が俺に右手を回しながら、左手で机の引き出しを探り始めた。何をしているのかと横目で見ていると、なんと取り出したのは小瓶に入ったローションだった。

「なんでそんな物がここにあるんですか」
「ああ? 色目を使ってくる生徒達の為だ」
「……アンタ本当に教師失格ですよ」
「お前に言われたくねーよ」

 こんなものを常備するほど生徒食ってんのか。風紀委員顧問がどんだけ風紀乱してるんだ。
 けれどもまあ、実際受け入れる側としては助かるわけだけど。
 青井は片手で器用に蓋を回して開け、俺の後に宛がった。

「……くそっ! 冷てぇ」

 塗りこまれる感覚に、思わず声が漏れてしまう。
 人差し指で入り口を広げるように出し入れされながら、青井の吐いたため息が俺の頬にかかった。

「もっと色っぽい喘ぎ声とか出せねーのか、テメェは」
「AV観過ぎじゃないですか、先生。そういうアンタはゴキブリを見てキャーとか言ったことあるんですか。大抵の場合、叫び声はギャーかウオオですよ。アハンとかウフンとかもう造語の域です」
「あー、分かった! 分かったよ、くそっ……可愛くねぇ」

 俺が可愛くないのは当たり前です、と言ってやろうと思ったが止めた。
 どうやら青井は色気のある行為に憧れているらしい。残念だが、それは色目を使って寄ってくるというその他の生徒と育んでもらいたい。まあ、俺からしてみればこんなホスト教師失格人間が愛だの色気だの言われても鼻で笑うだけだが。

 それでも、青井の太い指がとある一点を掠めた時俺は声を出さずに体を震わせた。

「……っ!」

 ビクン、と大げさに見えるくらい勝手に体が動く。
 少し恨みがましい目で青井を見上げると、ムカツクくらいにやけた面が目に入った。

「へえ。意外と可愛い所もあるんじゃねーか、お前も」
「うるせぇ、さっさとしろ。いつまで立ったままにさせるんだよ」

 そう、俺たちは未だに向かい合って立ったままだ。流石にこれは疲れる。
 俺の睨みに観念したのか、青井は一旦手を離すと俺を壁際に誘導した。冷たい壁に手をつかせ、お尻を突き上げるような格好にさせられる。
 下には、沢山の本と文章題のプリントが散らばっていた。どうやらこの男は現国の先生らしい。とりあえず倫理とかじゃなくて一安心だ。道徳とか倫理担当だったら、絶対笑う。

「大事なプリントも混じってるからな、汚すなよ」
「……って、え? っ!」

 とんでもない事を言い放った途端、熱い塊が俺の中に侵入してきた。
 少しずつ入れられる熱に思わず息が詰まる。

 って、コイツ無茶な事言わなかったか?

 もう一度下を見れば、プリントには生徒らしき字で答えが記入されているものも混じっている。これ、明らかにテストのプリントだ。しかも答え合わせ未済。なんてものを床に散らばらせているのか。

「……んっ、はっ…」

 ゆっくりと埋められていく熱を感じながら、俺は必死で耐えていた。
 ここでイケば確実にテストにかかる。いや、顔もしらない人間のテストが汚れようとこのボケ教師の責任だから一向に構わない事ではあるが、でも、気分的に嫌だろう。むしろ俺が嫌だ。
 間違ってもイかないように力をこめるから、余計後まで締め付ける結果になる。おかげで受け入れている部分がかなりキツイ。

「お前、ふざけん、なっ……」

 最奥まで受け入れた後、なんとか呟いた俺の恨み言を聞いて、青井は軽く笑い声を落とした。
 その体勢のまま、そそり立っている俺のモノに手を伸ばし、根元を握られる。

「じゃあ、イかないように手伝ってやるよ」

 そういうと青井は俺がイけない状態で腰を揺らし始めた。
 その激しい律動に、俺は壁に殆どの体重を預ける格好になる。

「うわっ、すげー締まるっ……」
「……ぐっ…あっ」

 浮かされるような青井の声を聞きながら、俺の体も昂ぶっていく。
 けれども、根元を握られているせいで体中に渦巻く快感を吐き出す事ができない。

「くっ…でるっ……!」
「ああっ…」

 容赦なく揺さ振られた後、俺の奥で青井のモノが弾けたのが分かった。
 熱い体液が俺の中に染み込んでいく。
 その余韻が終わらない内に、いつの間にか俺の屹立にはタオルが当てられ、握りしめられていた根元から圧力が消えた。

「あ、あ――っ」

 青井に背中から抱きしめられたまま、俺はタオルにすべての精液を吐き出した。
 我慢していた分、快感の波はなかなか止んでくれなかった。


「……は、はぁ…」

 すべてが終わって、俺はずるずるとその場にしゃがみ込んだ。
 本当はこんな汚い部屋で膝などつきたくはないが、仕方がない。
 ぼうっとしている俺をかいがいしく綺麗にしてくれた青井は、すっかり落ち着いた姿で俺を見て笑った。

「あー、じゃあ、風紀室も案内してやるよ。委員長?」
「……委員長?」

 聞き捨てならない発言に、俺の眉がピクリと上がる。
 そんな俺を楽しそうに見ながら、青井は当然のように言い放った。

「風紀委員はお前しかいないんだ、お前が委員長になるしかないだろ?」
「……面倒臭そう」

 委員長、か。面倒はご免なんだが。
 のろのろと立ち上がる俺の横で、青井は部屋の鍵を取り出しながら俺の行動を見つめていた。

「ああ、そうそう。風紀室にはな、仮眠室もあるんだぜ。豪華なベッド付きのな」

 ネクタイを締めていると、そんな説明をされる。
 俺はにやりと笑う青井に対して、目を細めて微笑み返した。

「それは――楽しみですね」

 俺の学園生活は、ついに明日から始まる。


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