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夢小説【黒//バ/ス//】
君が必要(氷室)



ウィンターカップ……俺達陽泉は誠凜に負けてこの大会に幕を下ろした。






「あー……優希にあわせる顔がないな。」

一人冷たい冬の夜風にあたりながら呟いたその言葉は暗い空に消えていった。

自分の力を出しきった試合ができて清々しい気分であることに間違いはないけれど、やっぱり悔しいし、秋田を出る時笑顔で送り出してくれた彼女の優希にも申し訳なさが残る。



そろそろ皆のところに戻らないといけないかな……


そう思った時だった。

「辰也っ!!」

空耳かと思った。

でも振り返ると、俺の方へ走りよってくるのは紛れもなく俺の愛しい人で……。

「優希!?……なんでここに!?」

「今日たまたまこっちに用事ができて家族で東京にね……今夜夜バスで帰るんだけど。」

せっかくだから見に来たのだと彼女は言った。

……カッコ悪いところ見せちゃったな。

「……っていうかなんで怪我してるの?!―……大丈夫?」

そう言って彼女が手を伸ばしてきたのは先程灰崎に殴られた時におった傷。

慌てる彼女に"たいしたことないから"と言ってなだめると、"ならいいんだけど……後でちゃんと消毒しなよ?"と心配そうに言ってきた。

しばらくの沈黙がおちる。

彼女もどう声をかけたらいいのかわからないんだろう。


そんな中、ふと口を開いたのは俺だった。

「……優希。」

「ん?」

「俺負けちゃったよ。」

「……うん。」

俺は少し笑って今日の結果を端的に言う。

見に来てくれていたのだから、わかっていることだろうけど……。

せっかく来てくれた優希に気を使わせたくない。

だから彼女が気がかりだろう結果のことを気にしていないということを伝えなくては……。

「でもね、凄く今スッキリした気分なんだ。自分のもてる力を全部出しきれた……とても楽しかったよ。」

明るくそう言って先程から困った、心配そうな、そんな表情をしている優希を安心させようとした。

彼女にそんな顔をさせているのは自分だと思うと心が痛む。

優希には笑っていてほしいのに……。


すると…………

「辰也。」

彼女がふっと優しく微笑んだと思ったら彼女に抱きしめられていた。

ぎゅっとというよりは、ふわっと包み込むように。

「優希……?」

突然の出来事に頭がついていかない。

どうすればいいんだろうと考えていると……

「お疲れ様、辰也。」

それだけの言葉。

でもそれは俺の胸にストンっと落ちてきた。

そしてゆっくりと溶けて染み渡っていき、様々な想い、感情が駆け巡っていく。

たった一言だったのにそれにはたくさんのものを含んでいて、その一つ一つが心に引っ掛かっていたものを取り去っていった。



「ごめん……ありがとう、優希。」

ぎゅっと彼女を抱きしめる。

「うぅん……というかこちらこそこんなことしか出来なくてごめんね。」

君はそんなことを言うけれど、俺はいつも救われてるんだよ?


きっと俺、すごく情けない顔してるんだろうな……。

でもこんなに彼女に甘えられるのは久しぶりでちょっと嬉しい。


今はもうちょっとだけこのままでいてもいいよね……?





君が必要

(「ねぇ……秋田に帰ったら優希で癒してくれないかな?」)

(「え……。」)

(「駄目?」)

(「……考えときます。」)


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