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夢小説【黒//バ/ス//】
遠回りの恋 (伊月)

「ねぇ、優希って好きな人いるの?」

昼休みに一緒に屋上で食べていた親友が何気なく言った質問に、私は一瞬動きを止める。

「なんで?」

「なーんか最近、優希の雰囲気変わったなーっと思ってさ。恋でもしてるのかと(笑)」

「……。」

黙った私を見て親友、宮田沙紀はにやりと笑う。

「ふーん……で?誰なの?」

「私何も言ってないけど。」

「黙ってるってことはいるんでしょ?何年あんたの親友やってると思ってるの!」

「別に好きって訳じゃ……。」

「わかったわかった。気になってるでもいいから!!ね、誰?」

「……部活の先輩。」

好奇心に目を輝かせながら身を乗り出して聞いてくる友人におされて私は口を開いた。

なんか言うまでずっと聞いてきそうだったから。

「部活ってことは……バスケ部?あんたマネやってたよね?」

黙って頷く。

私があの先輩を目で追っている自分に気づいたのはインターハイ予選が終わった頃。

そんな自分に気づきたくなかったし、先輩を意識してしまう自分が嫌だった。

だって


……叶うはずない。


叶わない恋ならしないほうがいい。

苦しくて辛いだけだから。

「どんな人なの?」

「どんなって……普通の先輩。」

「なにそれ……全然わからないんだけど。」

口を尖らせてつまらなそうに沙紀は言った。

わからなくていいから……

「もうなんでもいいでしょ。沙紀には関係ないんだから。それよりそっちこそどうなの?」

自分の話題から逃れようと質問を返す。

先輩のことを口に出しすぎると、抑えている感情が溢れてきそうで怖かった。

「えーっ!?結局何にもわからないじゃん……まぁバスケ部のこと、私は知らないし聞いてもわからないからいいけどさ。私はねー……軽音の先輩に好きな人いるんだ。先輩が卒業するまでに一緒に演奏したいなぁ。」

少し恥ずかしそうに、でも嬉しそうに笑顔で沙紀は答える。

好きだとはっきり言える、そんな友人が羨ましかった。



"ガチャッ"



「なんでいきなり屋上で昼飯食おうなんて言い出すんだよ。」

「たまにはいいだろ?晴れてる日の屋上、気持ちいいし。」

そんな話をしていると、二人の男子生徒が屋上に上がってきた。

背後から聞こえるその内の一人の声に私は硬直する。

「……優希?」

沙紀は不思議そうに私の顔を覗きこんだ。

「あ、優希ちゃん!!」

「おぅ、神山じゃねぇか。」

「こ……こんにちは。」

いきなりのバスケ部先輩二人の登場にテンパった……というより、さっき話してた"先輩"の登場にテンパった。

本当我ながら情けない。

「先輩方も屋上で昼御飯ですか?」

「あぁ……いきなり伊月が屋上で食おうなんていいだしてな。」

「せっかく晴れてるんだし、たまには外で食べたいじゃん、ねぇ?」

文句を言っているのは日向先輩。その隣で、爽やかな笑顔を浮かべながら同意を求めてくるその先輩こそ、私の"気になる先輩"である伊月先輩だ。

「バスケ部の先輩?」

沙紀が小さな声で聞いてきたので頷いて肯定を示す。

「えーと……優希ちゃんの友達だよね?こんにちは。」

この伊月先輩は誰にでも優しい……モテるんだろうなぁっていつも思う。

そう思うたびに胸がチクリと痛むのは気のせい……のはず。

「こんにちは。いつもこの子がお世話になってますー。」

「いえいえ、こちらこそ。」

沙紀の親のような発言に笑いながらそう返す伊月先輩を真っ直ぐ見れない自分に自己嫌悪。

「おい伊月、あんま二人の邪魔したら悪いだろ。あっち行くぞ。」

「そうだね……邪魔してごめん。」

「いえ。」

先輩達が去った後、(といっても見える範囲にはいるのだが。)沙紀は面白そうに私を見た。

「へぇ……伊月先輩か。」

「っ!!」

驚いて体がビクッと反応してしまう。

あぁ……わかりやすいわ、私。

案の定、沙紀はニヤニヤした表情を浮かべて私を見ていた。

「頑張れよー☆」

「いや、だからっ!!」

「はいはい、好きなわけじゃないんでしょ。気になるだけで。……あんまり大きい声出すと聞こえてるよ?」

その言葉に先輩達のいる方向を見てみると、伊月先輩が不思議そうにこちらを見ているのが視界に入り、バッと視線を戻す。

「……あぁぁぁ……もう……。」




そんなこんなで昼休みは終わった。













日常が過ぎていく。

バスケ部の皆はまずWC出場に向かって必死の練習をしている。

私はそんな彼らを必死でマネージャーとして支えた。
そんな大変な毎日の中でも、伊月先輩への想いは無視出来ないぐらい大きくなってきていて……



……そんな気持ち、認めないから。



伊月先輩は私にとても優しく接してくれる。

だけどそれが私に対してだけじゃないのはわかっていた。

優しくしてくれるのは嬉しかったけど、それが今は辛い。







部活も終わり、私は公園近くにあるバスケのコートにいた。

大体毎日部活終わり、ここで一人バスケの練習をしている。

中学時代に足を痛めてから、あんまり激しい練習は出来なくなってしまって部活には入れなかったけど……バスケは好きだったから。


対戦相手を想像して、ドリブルで抜いたり、シュートをうったり……。

一人での練習には限度があったし、誰かと試合みたいなことをしたかったけど、ボールをついていること自体が楽しくて満足だった。

「もう……何で……。」

ガシャンと音を立ててシュートをうったボールがリングに当たって跳ね返る。

いつもなら外さない距離なのに……。

最近は何をするにも雑念が入りすぎる。

はぁ、と小さく溜め息をついた。

その時、

「優希ちゃん、溜め息なんかついてどうしたの?」

聞き覚えのある声に驚いて振り返ると……

「い、伊月先輩!?なんでここに!?」

悩みの原因の先輩が立っていた。

「俺、時間ある時この辺いつも走ってるから。今もランニングの途中なんだけど……なんか優希ちゃん、深刻そうな顔して溜め息ついてたからどうしたのかなって。よくこの時間に見かけるけど……最近練習にも力入ってないみたいだしさ。」

気づかなかった……

見られてたんだ。

なんか負けた気分。

「別に何かあった訳じゃないので大丈夫ですよ?」

精一杯の強がり。

伊月先輩は「それならいいんだけど……。」とちょっと心配そうに言った後、私が持っていたバスケットボールに目を向けてから、にっこり笑って私を見た。


「俺でよければ、相手しようか?一人でずっとやっててもつまらないだろ。」

思いがけない一言に自分の心が高鳴ったのがわかった。

不意討ち。

「え……でも先輩、ランニングの途中じゃ……。」

「別にそんなのいいよ。優希ちゃんさえよければ一緒にバスケしたいしさ。」

狡いよ……

そんな優しさ反則。

気遣ってくれてること、ひしひし感じてる。

「……お願いします。」

私も断ればいいのに、口は勝手にそう言っていた。

きっとどこかで期待してるんだろう……伊月先輩が私を私として見てくれること。









「あ、もうこんな時間か……。」

「え……あ……本当ですね。」

伊月先輩との練習は楽しくて、おもわず時間を忘れて没頭した。

先輩の動き、ボールさばき、一つ一つが綺麗で……。

近くで見るとよりプレーが魅力的なんだなって思ったり。

なんでか悲しくなった。

その理由なんてもうわかってるんだけど……

「だいぶ遅くなっちゃったね……危ないし送っていくよ。」

「……大丈夫です、走ったらすぐ着きますから。」

早くこの場から去りたい。
……感情が爆発しそうだから。

お礼を言って帰ろうと口を開きかけた時、

「駄目だよ。優希ちゃんに何かあったら自分が許せないし。」

伊月先輩はちょっと怒ったような口調で、真っ直ぐ私を見て言った。

そしてすぐいつもの見守るような温かい表情に戻る。
どうして……

「……ですか……」

「優希ちゃん?」

「なんでそんなこと言うんですか!!」

思わず叫んでしまっていた。

「え?」

「……なんで優しくするんですか……。気がないなら優しくしないでください……辛いんです。」

我慢できず涙が溢れだしてきた。

「……先輩が好きだって気持ち、必死で気づかないふりして押さえ込んでたのに……なんで……。」

そのあとの言葉がでてこなかった。

ただ涙が次から次へと溢れだしてくる。

あぁ……言ってしまった。

言うつもりなんて無かったのに……

ずっと気づかないふりするつもりだったのに……

涙が止まらない……止められない。




「ごめん優希ちゃん……はっきり言えばよかったみたいだね。」

ほら、やっぱり。

……受け入れてなんてもらえない。

明日から私、大丈夫かな。
立ち直れるかな。

そんなことを考える。



すると……

「え……。」

なんで……?

伊月先輩に抱き締められていた。

理解がついていかず、彼の顔を見上げる。

いつもと違う……真剣な、どこか切なそうな表情。

なんで……こんなことするの?

なんでそんな表情してるの?

私のこと、可哀想だとか思ってるの?

たくさんの疑問が頭の中を駆け巡った。

悪い方向へと思考が走る。




けれど、次に彼は予想外な言葉を紡いだ。


「俺さ、優希ちゃんのこと好きなんだ……。」

その言葉に私の思考は停止する。

「…………嘘です……。」
私はそれが簡単には信じることが出来ず、震える小さな声で言った。

伊月先輩が私を?

そんなことあるはずない……。

「嘘じゃない……出会った時から気になってて……一生懸命頑張ってる姿見てたら笑った顔も、真剣な顔も可愛いなって思うようになったりしてさ……いつの間にか好きになってた。」

黙って彼の腕のなかで聞く。

その言葉一つ一つが私の心に染み渡っていった。



「けっこう必死にアピールしてるつもりだったんだけどな……。名前で呼んだり、一緒に買い出し行ったり、他にも色々。」

「伊月先輩……。」

「伝わって無かったばかりか苦しませてたなんて……俺って最悪だ。」

彼は自らを嘲笑するように笑った。

「そんなこと……私こそすいません。……傷つくのが怖くて先輩から逃げてて……。好きだって想い、認めたくなくて……気づかないふりして先輩の気持ちに気づけなかったんです。」

本当、私って馬鹿だな。

鈍感すぎるよ……。



伊月先輩は私を離し、真っ直ぐな瞳で私を見る。


「色々遠回りしちゃったけど……俺と付き合ってくれますか?」


穏やかな笑みを浮かべている彼はとっても綺麗だった。


遠回りの恋




(「で、伊月。神山と何かあったのか?最近仲好さげじゃねぇか。前まで避けられてたのによ。」)

(「仲直りして前より仲良くなっただけ。」)

(「喧嘩でもしてたのか?」)

(「どうだろうな(笑)。」)


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