夢小説 【イナイレ(中編〜長編)】
交錯
**剣城優一Side**
優希さんに想いを伝えられないまま、時間が流れる。
日常は何もないまま過ぎ去っていった。
ただ少し気になることはある。
京介と優希さんが話している所を見なくなったこと。
というより、優希さんはいつも通り同じ時間に診察に来てくれるけれど、京介がその時間を避けて見舞いに来ているような……。
一度京介に尋ねてみたが、"別に"と言うだけだった。
"トントン"
「はい。」
「こんにちは。」
優希さんがいつものように診察に訪れる。
問診をして……
変わった様子はない。
「優希さん、最近京介と何かありましたか?」
聞いてみた。
するとピクっと小さく彼女の肩が反応した。
何か知っている……というより関わっているのだろうか。
「京介くん、何か言ってたりした?」
「いいえ……ただ近頃優希さんが来る時間を避けて来ているような気がして、何かあったのかなと。」
「そう……。」
彼女はため息をついて困った顔になった。
「京介が何かしたんですか?」
「いや……そんなことはないから安心して。」
笑顔になって首をふった。
何があったんだ……。
優希さん、困っているような気はするけれど。
自分だけ仲間外れにされているような感じもするし。
というより、相談してくれないことが狡い。
俺のことは心配してくれるのに、心配はさせてくれないなんて……。
京介のことも心配だけど、優希さんのことだって心配なんだから。
「困ったことがあったなら言ってください。京介のことで言いにくいのかもしれないですけど……。」
「んー……私が言えることじゃないんだ。京介くんが言わないなら言えないな……。」
どこか陰がある微笑み。
心配になってしまう。
好きなんだから尚更だ。
相談してくれないのは、俺の弟のことだからっていう理由だけじゃないと思う。
頼りないんだろうか……。
「……そうですか。あの……俺、優希さんのこと、とても大切に思ってます。何かあったらいつでも力になりますから。」
「うん、ありがとう。」
今の自分にとっての精一杯の告白だった。
でも優希さんは言葉に込めた想いには、気付いてくれていないんだろう。
優希さんの微笑みに、俺は笑顔で返すしかなかった。
「兄さん、変わりはないか?」
優希さんが病室からいなくなってから少しして、京介が来た。
普段どおりなんだけど……
「優希さんと何かあったの?」
「……。」
そう聞いた瞬間、京介は下を向いて黙った。
「優希さん、何か言ってたのか?」
「笑ってごまかされた。自分が言えることじゃないって。」
また京介は黙ってしまった。
言いたくないことなんだろうか……。
音の無い時間。
短い時間だったはずだが、長く感じた。
沈黙に耐えられず、何か言おうとしたが、先に口を開いたのは京介だった。
「優希さんに告った。」
信じられない……というより思いがけない一言だった。
俺の知らない所でそんなことがあったのか……。
優希さんもこれは流石に言いにくかったらしい。
……というか京介も好きだったんだ。
「……兄さん?」
「あっ……そうだったんだね。」
そう言うことしかできなかった。
「「……。」」
さっきより長い沈黙。
お互い何を言えばいいのかわからない状態だった。
「優希さんは何て返事したの?」
「何も……でも俺がもう忘れてくれって言った。困ってたしな。」
京介は苦笑いをした。
「中学生から本気で告白されても……な。」
そうなるんだろう。
「そうか……。」
弟になんて言葉をかけたらいいかわからない。
俺はこんなにも無力なんだな……。
でも取りあえず今はしばらく、俺の優希さんへの気持ちは抑えておいたほうがいいみたいだ。
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