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銀の魔力
第一章 月の降る草原 4
 

眼前に広がるのは、まるで銀の雫が降り注いだかの様に輝く草原。
その幻想的な景色に、思わず息を呑む。
さらさらと草の間で音を立てながら、頬を撫でて行く風が心地良い。
そして、風の行く先は草原とは対照的な程、黒く深い渓谷へ繋がっていた。

未だかつて、これ程見事な景色を見た事があっただろうか。
この景色を自分の他にも見た者がいるのならば、きっとその美しさに魅了され感嘆の息を漏らしたに違いない。
しかし、この時の一護の感嘆の息が向けられたのは、魅惑的な光を放つ月でも、その光を受けて輝く草原でもなかった。
その理由は実に単純明解で、この美しい草原の景色より更に、一護の視線を奪い魅了する存在がそこに在ったからだ。


先客が居たのだ。


まるで、月明かりの化身かと見紛うばかりのその姿。
一護に比べて遥かに小柄な体格でありながら、今宵の満月と比べても決して色褪せる事はない。
一瞬にして、体中の全ての神経がその存在に釘付けになる。



「銀色の髪……」



一護に背を向け、月を眺めていた銀色の影は漸く彼の存在に気付いたらしく、はっとこちらに振り返った。
そして現れたのは、白銀の毛並みに映えるこれもまた見事に輝く一対の翡翠。


「―――――……っ////」


自分の褐色の瞳とは違う光を放つ蒼を帯びた宝石に射竦められ、息をする事すら忘れてしまいそうになる。

銀を纏ったその獣の仔は一護と目が合うと、僅かに細く綺麗に整った眉を寄せた。
そしてまた一護に背を向けると、静かに歩き始めた。

「あ…ちょ、待て……―――っ!?」

やっと我に返った一護が慌てて小さな背中に声を掛けようとした時、突然二人の間に一陣の風が吹いた。


「う…わっ!」


草原の草を巻上げる程強く吹き付ける風に、堪らず目を瞑る。
一護が次に瞳を開けた時には銀色の獣の姿はなく、ただ風に舞い上げられた草の葉が儚く渓谷に攫われていくのを見送るしかなかった……―――――















 

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