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銀の魔力
第四章 理由 6
 

次の日、夜がその支配を強める時間帯。
一護は日の入りと共に目を覚まし、いつもより早く外出の支度を整える。
その理由は言わずもがな、昨日冬獅郎と交わした約束の為だ。

「おっと…こいつを持って行かなきゃな♪」

冬獅郎お気に入りのチョコレートが入った箱を小脇に抱え、足取りも軽く重厚な造りの屋敷の扉を開けようとしたその時……


「待ちなさい、一護」


一護を呼び止めたのは、父親である黒崎家の現当主・一心だった。

「んだよ、親父。俺、急いでんだけど?」

あからさまに不機嫌な様子で返答をする息子に軽く溜息を吐くと、一心は殊の外真剣な面持ちで口を開いた。

「どこに行くのかは知らんが……少し話がある。来なさい」
「待てよ!今日は約束が……っ」

それだけ言うと踵を返し、屋敷の奥へと入っていく一心。
どうやら、一護に拒否権はないらしい。

「ちっ……!」

普段はどんなにユーモラスで豪快な雰囲気を纏っていようとも、その本質は伯爵位を授かる程の強力な魔力を秘めたヴァンパイア。
本来なら、ヴァンパイアとしての基本的な能力さえ完全に覚醒していない一護が逆らえる筈がないのだ。
いつもと違う空気を漂わせる父親を無視する訳にもいかず、一護はしぶしぶと後を付いて行った。





今宵の月は何時にも増して、何と美しい事だろうか。

しかし、実際は昨日の月と比べてもそう大差はないのだろう。
そう感じてしまうのは、きっとただの気の持ち様だ。
自分も案外単純だな…と考えてフッと苦い顔で笑う。

草原では既に冬獅郎がそわそわと若干落ち着きのない様子で、一護の到着を待っていた。

「ちょっと早く来過ぎたか……//」

そう思い、草の上に腰を下ろし、月を眺める事にした。

彼が来たら先ず、何を話そうか。
そんな事を考えては、期待に胸を膨らませる。

(もっと、黒崎の事が知りたい……//)

滅多に自ら口を開こうとしない自分がそう話し掛けたら、彼は驚くだろうか。
しかし、きっと直ぐにいつもの優しい笑顔をくれるに違いない。

「早く…来ねぇかな……」

一護の事を考えながら、何度も右手の小指を撫でる。
その度に、深く刻まれた眉間の皺をほんの少し緩めて。


「約束……//」










 

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