屋根裏部屋 My duty 2 「ねえ、アキ?」 大人しくビニル袋を両手で持ちながら、千裕は楽しそうにこちらを見上げてくる。 「アキはまた俺の仕掛けた罠にかかったね、」 「わな……?」 「そう、罠。餌にあっさり引っかかった。何か分かる?」 「……いつの間に…、」 呆れてハサミを使う手を休める。ベッドに腰掛けて袋をあごの下に掲げている青年は、瞳をきらきらさせていた。間抜けなその格好が、すごくお似合い。 「退屈してたんだ。だから、掛かるかなと思って、少し開けておいた。」 千裕が顔を少し前に押しやる。彼の示す方向にあるのは、この部屋の出入り口。 「……ね?」 絶句。時々幼い少年みたいなことをする彼は、終わりの見えないお仕事に飽きていたようだった。 「呆れた……、」 はあ、とわざとらしくつくため息も、次にはすぐに微笑みに変わる。わたしは千裕の鼻に乗った毛を取るふりをして、彼の鼻を軽く指ではじいた。 「痛い、アキ」 「痛いようにしたの。」 「次は、優しくしてね?」 「………。」 「アキ?」 「千裕がそういうこと言うと、いやらしく感じるわ、」 「……そう?なら、それでもいいな。」 些細な日常。こんなにも幸せな、ある日の話。 *髪を切り終えて…… 「出来た、」 「ね、アキ。少しは気づいてただろ?」 「いいえ、全然、」 「またそう言う。あれは、誰だって気づくようにしておいたんだから。」 「思いもよらなかったわ。貴方が、仕事をさぼると思わなかったし、」 「……それは、ひどいな。俺にとって仕事は、アキと一緒にいるために必要なものの一つであって、最優先することじゃない。」 「……っ、」 「あ、赤くなったね。俺の勝ち。」 「っ、勝負してない!」 end BacK:NexT |