屋根裏部屋 My duty 1 それは、ある日の些細な日常の風景でした。 「ねえ、ちひ……」 珍しく、書斎のドアが僅かに開いている。 「……?」 わたしは一旦立ち止まった。 普通、仕事をするのなら間違いなくきちんと閉めると思うのだけど。特に彼なら。 ……でも、この部屋に入ってるってことは、千裕は仕事をしているんだ。 少しの疑問よりも強い好奇心に負けて、そっとそこから部屋の中をうかがった。 目的の彼は険しい顔つきをして白い紙を見つめていた。わたしはこれまでに見たことがなかったけど、眉間に深いシワ。 どうやら読むのに夢中で、わたしが声をかけたのには気づいていないらしい。 ……あ。前髪、伸びたな。 仕事モードの横顔にかかる前髪は、幾分伸びて明らかに邪魔そうだ。 これは珍しいものを見た、と思って観察しようと思った矢先。千裕がぱっとわたしの方を見た。 「アキ?」 わたしを見る、特上の優しい顔。自分でも分かるくらい、愛情に溢れてる、微笑み。 「どうした?」 扉をめいっぱい開ける。さっきまであんなに険しい顔してたのに。 「なんでもないよ、」 そう言って微笑むわたしの表情も、きっとあなたが一番大事だって顔してると思う。それは事実。 千裕が何も言わずに机に紙を置いて。それを合図に、わたしは部屋に足を踏み入れた。 「アキ、」 甘えるように千裕はわたしの腰に手をまわして、座ったままわたしを抱き寄せた。彼の頭のてっぺんが見える。普段見上げる彼を、今日はわたしが見下ろすなんて、変な感じ。 さらさらとした黒髪にそっと触れる。 「千裕、前髪伸びたね。」 「……あぁ、もうそろそろ一ヶ月経つからな、」 前に切ってもらってから。 そう囁いて彼はわたしの手の甲に唇をあてた。くすぐったく思いながら、わたしは 「じゃあ、また切ってあげる。」 と囁き返した。 NexT |