さてこの事態は、どうしたものか(成宮)



ゆずの『夏色』という曲が好きだ。
特にサビのフレーズが好きで、憧れのシチュエーションだった。


だけど、



「この長い長い下り坂を〜♪君を自転車の後ろに乗せてっ♪
ブレーキいっぱい握りしめてぇ♪ゆっくり〜ゆっくり〜下ってく〜〜〜♪」




…まさに今、こんな状況なのだが、


「……………なんっか違う気がする……」


後ろで歌っている鳴を睨むと「何が?」と涼しそうな顔。

一方私はというと、息を乱した汗だくの顔。

それもそのはず、私が自転車をこぐ方で、鳴が後ろに乗ってる方だからだ。


「ねぇ、普通逆なんじゃないの?」と言えば
「エース様はお疲れなの!」って。

私が上り坂を死にそうになりながらこいだというのに、少しは気を使ったりできないのかこのワガママ王子は。




「…まぁいいや。じゃあ、お礼になにか奢ってね」

「無理!俺30円しか持ってないし」

「うそ、エースのくせに貧乏」

30円っていったら
うまい棒3個か、チロルチョコ3個か、そんなものしか買えないじゃん。

「ってことで可哀想なエースになにか恵んで」

「なんでそうなるのさ。この前奢ってあげたばっかじゃん」

「分かった。じゃあいつか返すから」「やだ」

「2倍にして返すって!」

「そう言ってこの前のジュース代もまだ返してもらってない」

「いいじゃんそのくらい」

「よくないわ!」

あたしだってお金ピンチなんだぞ。120円だって貴重だ。
そういえば、アイス代もパン代も返してもらってないや。


「きっちり払ってもらいますからね」

今までの貸しをお金で。
って意味で言ったのに

「体で?やだ、なっちゃんたら大胆〜」

なんてふざけたこと言うから

「違うわぁぁ!!」

怒鳴ってやった。
自転車乗ってなければ殴ってやるとこだった。



「まぁまぁ。俺が将来がっぽり稼ぐから」

「…それまで待ってろと?」

「いえす」

「……」

「伊勢エビや北京ダック、食べ放題だよ〜」


…食べ放題……。

……なるほど、悪くないな。


鳴が言ったことに根拠はないけど、何故か期待してしまった。


「しょーがない。ガリガリくんでも奢ってあげる」

「まじで!?なっちゃん大好き!!」

「うんうん。ただしさっき言ったこと忘れないでよ」

「もちろん!

あっ、ついでにPSPも買って」
「調子乗んな」


ちぇー、と口を尖らせる鳴は、
結局最後まで私に自転車をこがせたし、
そのあともワガママ言いたい放題で。




それでも憎めないのは

鳴の特質なのか

それとも、


私が鳴を好きだからか。






さてこの事態は、どうしたものか




*title:おやすみパンチ

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