あの頃。(倉持)


「バケツ持って廊下に立ってろ!!」


2時限目の授業中、
口喧嘩していた私達は、先生に怒られて渋々と廊下へと出る。


「まったく、倉持に関わるとロクなことないよ…」

「あ?お前のせいだろ」
「いやアンタのせいだし」
「お前だし」
「あーもうキリがないじゃん。ってゆーかバケツ重っ」

嫌味いっぱいに水が入ったバケツを見て思いつく

「教室からバケツ持ってんの見えないよね?」
「多分な」
「じゃあ持っていようが持ってまいが関係ないじゃん。何やってんの私達」
「ヒャハハ、お前天才」

「下ろそ下ろそ」ってバケツを下に置いたら「聞こえてるぞコラ」って、また先生に怒られた。
バケツもまた持たされた。
「次うるさかったら校庭10周だからな」って。ふざけんなハゲオヤジ。


体育の移動中であろう1年女子軍団が「あ、あの人達また立たされてるー」なんて私達を見て笑う。

私達は席が近くなってから、よく廊下に立たされる常習犯と呼ばれるようになっていた。

はぁ、私は被害者だってゆうのに。


「ってゆーか今時バケツ持って廊下立たせる?」

「ねーよな。あの人なんかずれてんだよ」
「分かる」
「『結婚はしない』っつってるけど、できないだけだろ」
「確かに。でも倉持もそうなりそう」
「お前には言われたくねぇ!」
「ちょっと静かにしなよ、また怒られる」

って、自分から言っといてなんだが
2人しかいない静かな廊下はやっぱり気まずい。

「あーおもーい」
「…」
「おもーい」
「るせーな」
「ねー倉持、あたしの分のバケツ持ってよ」
「知るか」
「いーじゃんケチ。なんのために野球部やってんのさ」
「別にバケツ持つためにやってるんじゃねーし」

「…そっか」


そうだよね。

甲子園に行くために、
毎日頑張ってるんだもんね


それでも届かなかった、今年の夏。「ぜってぇ優勝すっから見とけ」って、自信満々に言っていた彼が泣いたのを、私は知っている。

神様はなんて酷い仕打ちをするんだって、憎んだ。

でも今では彼等は前を向いて進んでいる。夢に向かって努力している。

私には何もない。
だから、何かを一生懸命やっている倉持がよりかっこよく見えてしまう。

あ、そうゆう人を側で支えるってのもいいなぁ。


「…あのさ、倉持」
「ん?」
「もし将来、結婚できなかったら、私が結婚してあげていいよ」
「…」
「…」
「…いや、いいわ」
「えー、なんでー」
「俺が、結婚してやるよ」
「なにそれ気分悪い」
「最初に言い出したのお前だぞ」
「そうだっけ」

でもどっちにしろ、倉持と結婚することになるのか

やばい、変に意識してきた
話題を変えよう

「倉持、歌って」
「なんだよ急に。何をだよ」
「なんでもいいから」

意味わかんねぇ、と言いつつ
少し考えてから歌い出す

「ドーブネーズミ、みたいにぃ〜♪」
「ブルーハーツ?」
「そう」
「いいよね。あたしも好き」

喧嘩はするくせに、なかなか趣味や意見は合う。
けっこう相性とかよかったりするかな。


倉持は続けて歌う。

「…写真にはうつらない〜」

「「美しさ〜があーるかーら」」

つい、私も一緒に口ずさんでしまって。

教室のドアをガラッと開けた先生が
「おめぇら…歌うなんていい度胸じゃないか」と、校庭10周をくだされてしまった
教室からクラスメートの笑い声

あぁ、また伝説になるんだろうな

先生に命令されるがまま
校庭へ向かう

もちろん、走る気はない。
適当に時間潰して帰ろうって、倉持に言おうとしたら

「お前、さっきの話忘れんなよ」と。

「え?なんの話」
「だから…
俺が幸せにしてやるって話」
「…」

幸せにしてやる、なんていかにもプロポーズっぽいし、てゆーかさっき『幸せに』とは言ってないし。

でも5年経った今、彼の側で幸せな私がいるわけだから、
あの時の彼の言葉は嘘じゃなかったってことで。









あの頃。



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あきゅろす。
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