君が知らない僕の気持ち(伊佐敷)

「いさしきー」
「あ?」
「宿題みして」
「またかよ」
「ありがとー」
「勝手に取んな!!」


怒る伊佐敷を想定していたあたしは、少女漫画の新刊をさっと見せびらかすように渡した。

「一週間以内に返してね」
「…」


ほら、大人しくなった。
交渉成立だ。




伊佐敷の隣の席になって早一ヶ月。

最初は不良だと思っていた伊佐敷が隣の席になったときは心の底から最悪だと思っていたけど、そうでもなかった。

ただ馬鹿でうるさいだけ。
怖いなんて感情は全くなくなった。むしろ面白いし、宿題も見せてくれるし、

「あたし伊佐敷の隣になれてよかったなぁ」

宿題を写しながらしみじみと呟くと、
「…んだよ、急に」
どうせ宿題が楽になったとかそうゆうことだろ、て。
見事に心を見透かされた。

「よく分かったね」

「お前はそうゆうのぜったい否定しないよな」

「ほら、あたしピュアだから嘘つけな「黙れ」」


毎日こんなくだらないやり取りばっかり。
でもそうゆう些細な会話さえも楽しかったりする

宿題だけじゃない。伊佐敷の隣でよかったと思うのは。
本人には絶対言わないけどさ。






「…なんだよ」

「へ?」

「さっきから何見てんだよ」


「…嘘、見てた?あたしが伊佐敷を?」


うわ、完璧に無意識だった…
恥ずかしー…。



もちろん、素直な気持ちが言えないあたしは

「いやー…、ついその立派なお髭に見とれてしまって」

とかしらじらしい嘘をつくわけで

「てめぇ、馬鹿にしてんだろ」

ってほら、また喧嘩が始まる



ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ


あたしはともかく、伊佐敷の無駄にデカイ声はクラスの視線を集める。

案の定それを遠巻きに見ていた男子に「おいー、教室でイチャつくなよ伊佐敷ー」なんて冷やかされる。
そして、伊佐敷が吠える。
「イチャついてねぇぇぇ!!」


これも最近じゃ恒例だ。

あたしは伊佐敷の彼女だと本気で思われてるらしい

そういえば今朝も、クラスのミーハー女子に「多部さんって伊佐敷と付き合ってるのぉ?」とか「どっちから告白したのぉ?」とか、どんだけ否定してもしつこく聞いてきたな








「あたしとこのヒゲが…カップルねぇ…」

ぼそっと言ったつもりなのに
「あ?誰がヒゲだコラ」
地獄耳だなぁこの男は。



そういえば。

特に考えたことはなかったけど
伊佐敷はどう思ってるのかな



…嫌じゃないのかな?
…嫌かも。


あたしが彼女と思われてるようじゃほんとの彼女もできないし


いや、それより、もし伊佐敷に好きな人がいたとしたら?
いるかもしれない

知らないうちに迷惑かけてたんだなって気付くと、すごく申し訳ない気持ちになって、どんどんネガティブになっていった




「…ごめんね、伊佐敷」

「あ?何がだよ」

「付き合ってるって思われてるじゃん、あたし達。


…あたしが伊佐敷につっかかるせいかなって」

「…だったらなんだよ」

「いや、嫌でしょ?」

「は?別に嫌じゃねーよ」


予想外な答えに胸をうたれる。


「多部は?」

「え」

「嫌じゃねーの?」



「…嫌じゃ…ないけど」


あぁ、こんな返し方になってしまって。
気まずい空気を作ってしまったじゃないか

ここはノリで返すべきだろ自分のばか!



とかなんとか自分の中で葛藤してたら

「めんどくさいからもう付き合うか」

って。


…ええええええ!?




一瞬、固まってしまった

けど、すぐはっとして言った


「…いや、断る」

これこそノリで返すべきだと判断した

「なんだその断り方は」

伊佐敷は少しイラッとした表情を見せて机に顔を伏せた






あたしはおもむろに読みもしない本をとり出す。

冗談とは言え、好きな人に「付き合うか?」と言われるのはドキドキするものなんだな

その気持ちを隠すように、冷静に本を読んでるフリをする。



長く続く沈黙






「多部ー」

「ん?」



「…好きだ」








伊佐敷は顔を伏せたまま。


今、彼が言ったのか?

耳を疑った

教室の雑音に埋もれたいつもの伊佐敷らしくない小さな声

でも確かに聞こえた




本を持ってる手が震える


何か言わなきゃ…

なにか…



次第に高鳴る鼓動を押さえて
平然さをよそおい言った




「えっ?ごめん、聞こえなかった。もう一回言って」







あぁ、

なんでこうなるんだろう。



そして我ながらなんてベタな返し。



ふるふると震える伊佐敷

「〜〜っもうぜってぇ言わねぇ!」

急に吠えたと思ったら、また机に顔を埋めた。

あ、耳赤くなってる


可愛いな…


こうゆうところも好きだよ

って、明日こそはちゃんと自分の口から言えるといいな






君が知らない僕の気持ち



*純さんの隣の席になりたいとゆう作者の妄想からできた物。
なんだこれ。


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