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東方時空録・過去編
鮮血に染まる彼女の運命
 一人の少女を取り囲む様に、人々が集まっている。聞こえてくるのは、少女の陰口ばかり……中には少女の両親の悪口を言う者もいた。


――『仕来りを破り続けた罰だ』

――『これに懲りたら、二度と破るのではないぞ』

――『……おい、話を聞いているのか?』

――『全く、大人の話もまともに聞けないとは。親が愚か者だと、子も愚か者になるから困る』

――『村長、コイツの処分はどうしますか?』

――『放っておけ。仕来りを破る者など、この村に居る資格はない』


 ギリッと歯を食いしばる少女。目からは大粒の涙が流れ、頬を絶え間なく流れていく。
 地面に膝を着き、眼前の物を凝視している。
 木に括り付けられた男女の“死体”。双方、胸には刃物が深々と刺さっており、そこからは死後尚も多量の血が流れ出ている。
 憎しみに満ちた表情の少女――夜次 秋葉は、ゆっくりと立ち上がると、俯いた状態のまま振り返った。


「恨むなら自分自身を恨むんだな。仕来りをきちんと守っていれば良かったものを……」


「ん? コイツ何か言ってるみたいだぞ」


「おいおい、今更泣き言か? これだから子供――」


 噴き出る血飛沫。一瞬にして、その場に血の雨が降り注いだ。
秋葉は抜刀の勢いと共に間合いに居た男の首を刎ねる。


「――てやる……殺してやる! 貴様ら全員生きて帰すものか!!」


 ヒュンと刀を振り、付いた血を地面へ飛ばす。鞘を投げ捨て、次の標的へ間合いを詰める。


「ひっ! 助――」


 声を上げようとした者の喉を切り裂き、更に踵を返して逃げようとした者の足首を切り落とす。
 足首を切り落とされ、這って逃げることを余儀なくされた者の背中に刀を突き刺す秋葉。


「逃げたら殺せないじゃん? 貴様ら全員動くな」


「うぐっ……た、助けて、くれ。何でも、何でも言う事、聞ぐがらっ!」


 背中を刺されている少年は、必死に命乞いをし始めた。あれだけ秋葉を、両親を侮辱していたのに。プライドを捨て、助かりたいが為に媚びを売る。人間とは醜いものだ。
 その言葉を聞いた秋葉は、背中に突き刺していた刀を抜く。その瞬間、少年はホッとしたんだろう。恐怖で歪んでいた表情が若干緩んだ様に見える。


「…………」


「も、もうこんな事はしない。お、お前らもそうだよな?」


 恐怖のあまり、動けなくなっていた村人達は、ぎこちないが相槌を打ち始める。必死に、そう助かりたいが為に……
 少年は一人、勝ち誇っているようだった。が、秋葉を見ると一瞬にして表情が凍り付く。


「誰が止めるって言った? あの時、私が何度も止めてって言っても止めなかったくせに……残念だけど、止める気はさらさら無いから」


「止め――がはっ!」


 心臓目掛けて刺突を放ち、更に刺した刀を回転させて抉る。
 勢い良く噴き出す血。
 それは秋葉の服を、肌を、髪を赤く染め上げる。勿論、刀にも血が付着し、引き抜いた後も切っ先から鮮血が滴り落ちていた。


「次は誰にしようか? 逃げても無駄、どうせ一人残らず殺すつもりだし」


「っ! ……さ、殺人鬼め! もう無理だ……お、俺は逃げるぞ! どけっ!」


 殺されると分かっていて、その場に止まる者はまず居ないだろう。眼前に死を齎そうとする者が居たら、逃げようとするのが本能。
 その本能は引き金となり、瞬く間に周囲に広がっていく。
 一人、また一人と、逃げる者が増えていった。


――『し、死にたくない!』
――『助けて!』
――『逃げ……逃げるぞ!』
――『ひぃぃぃ!』

 まるで蜘蛛の子を散らすが如く、一目散に逃げ出す村人達。人を押し退け、踏みつけ、そうまでしても逃げ切ろうと。
 中には腰を抜かして動けない者も居たが、誰一人として連れて逃げようとはしなかった。


「お、お願い殺さないで! 家にはまだ幼い子が居るの、だから!」


「――ないでよ……」


「え?」


「逃げないでよ! 自分達だけ助かろうなんて図々しいよ! 私のお父さんを、お母さんを返してっ!! うぅ……うぁあぁぁぁあぁぁぁあぁ!」


 憎しみや悔しさ、悲しさなどの負の感情を抑えきれず、叫ぶしかなかった。
 何も出来ず、目の前で両親が殺されるのを見ているしかなかった秋葉……少しでも行動を起こしていれば助ける事が出来たのでは? と考えてしまう。
 ――後悔先に立たず。悔やんでも悔やみきれないのだ……もう、“過ぎ去ってしまった事”は。
 起きてしまったものはどう足掻いても元には戻らない。“時”を“過去”に戻さない限り永遠に……


(逃げないでよ……止まってよ……っ!)
「――止まれぇぇぇぇぇえぇぇ!!」


 頬を伝う一条の雫を拭い、無意識に秋葉はそう叫ぶ。その声は村中に響き渡る。全力で、息の続く限り叫んだ。本当に息を吐く事が出来なくなるまで……
 叫んでもどうなる訳じゃないのは重々承知の上だ。所詮、無駄な足掻きか負け犬の遠吠えでしかない。叫び疲れ、うなだれていた秋葉の表情は悔しさと怒りに満ちていた。自分にもっと力があれば、と。
 しかし、今更そんな事を悔やんでも仕方がない。今は己の感情を……殺意を糧に――物音が聞こえない?
 今まで気付かなかったが、何時の間にか静寂が訪れていた。先程までの騒動が嘘の様に、足音や泣き声、秋葉に恐怖し悲鳴をあげる者の声すらも、一切聞こえなくなっている。


(……どう言う事?)


 周りを見渡すと、村人達はその場で“止まっている”――いや、止まり方が明らかに不自然だ。足がもつれて転び掛けてる者や、両足が地に着いてなく、宙で止まっている者もいた。その光景はまるで、紙に描かれた絵を見ているかの様だった。
 当然疑問を抱くのが常識だが、今の秋葉にすれば逆に好都合ってもんだ。何せ、苦労もせず、楽に“殺せる”のだから……
 刀を持つ手に力を入れ、目を瞑って子を抱きしめて止まっている女の首目掛けて勢い良く振り上げる。


「恨むなら、自分自身を恨んでね……へぇ、跳ねても“止まったまま”なんだ」


 確かに首を跳ねたのだが、胴体と切り離された頭は宙に止まり、血は噴き出していない。試しに刀の峰で頭部を胴体からずらしてみたが、それでも重力に囚われる事はなかった。当然、原理は分からないし、何故この様な事が起きたのかも。
 秋葉は多少物足りなさを感じたが、この際仕方ない事だと割り切る。


「さようなら……そして――ごめんなさい」


 一度刀を振り、付着した血を払う。無造作に投げた鞘を拾い上げ、次の標的へと歩を進めた。
 秋葉の顔には表情は無かった。喜怒哀楽のどの表情も……







ーあとがきー


ちと省き過ぎたかな?(汗
まぁ、逆にボリュームのあるプロローグもどうかと思うけど。

次はその後(数ヶ月後)の話を書こうと思ってます。
シナリオは未完成(おいィ!?

でも粗方決まってるので、何とかなりますけどね。
戦闘は……時代設定そんなに考えてなかったから控え目になるかな?

取り敢えず、過去の秋葉は着物姿(淡いピンク)で如何だろうか?
異論は認める。



6/14/23:25

‡未来へ#‡
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