東方時空録
『第四録…レンの目的、整った舞台』
「――俺を、止めに? ハッ、寝言は寝てから言うんだな」
秋葉が「アンタを止めに来た」と言う言葉を、レンはバッサリと容易く切り捨てた。同時にやれやれと呆れた仕草をする。
「何をしようが俺の勝手だ。指図される筋合いはこれっぽっちもないぜ?」
「あら、それはどうかしら? このままじゃ、“博麗の巫女”が動き出すのも時間の問題よ?」
「…………」
“博麗の巫女”――その言葉を聞いた途端、レンの表情が険しくなった。此処――幻想郷――に長らく住んでる者なら、それが何を意味する事だかを理解してる筈だ。
「――成る程な、俺のしてる事が“異変”だって言いたいんだろ?」
「ご名答。分かってるのなら、止めてもらえると此方としても楽なんだけどねぇ……?」
などと、扇子で口元を隠したまま紫はレンを目を細めて見据える。
此処で首を縦に振ってくれれば、穏便に解決出来るのだが――レンは縦ではなく、横に振った。
「お前等が来ようが博麗の巫女が来ようが、俺は“コレ”を止める気はねぇ……。ま、それでも止めるってんなら、相手してやっても良いんだぜ?」
魔導書を腰に付けてたやや大きめのポーチに仕舞い、右手には間にかレンの身の丈を越える大剣が握られていた。既に臨戦態勢に移り、いつでも始められる状態だ。
「話し合いが無駄だって事は百も承知。けど、こう言うのって前振りが大切じゃない?」
「はっ、そんなの茶番でしかねぇよ。俺なら話し合いする前に切り掛かるぜ?」
「フフ、実にアナタらしい発言ね。血の気の多い子はいずれ痛い目を見るわよ?」
「忠告どうも。んじゃ、そろそろ始め――「ちょっと待って」……何だよ秋葉」
明らかに不機嫌だと言わんばかりの表情をするレン。それもそうだ、一戦交える気満々で話を進めようとした途中で割って入られたのだからな。
レンに睨まれつつも平然を装い、今まで気になっていた事を聞き出そうと考える。
「私とチルノはレンが何の目的で“冬の力”を集めてるか分からない。だから、何をしようとしてるのか教えてくれない?」
「……知りたきゃ、俺を倒してから――うおっ!?」
「レンのケチ、教えてくれても良いじゃない」
話を最後まで聞かずに、秋葉は鎌鼬をレンに向かって放った。まぁ、軌道を逸らしているので当たりはしない。ま、レンがその場から動かなければの話だがね。
抜刀した氷影を鞘に戻すが、いつでも抜けるように右手は柄に添えてある。
「冬の力を集めて何する気? 何の目的があるわけ?」
「――私利私欲の為って言えば満足か?」
「……むぅ、絶対何か隠してる」
「はっ、本当の事が知りたきゃ俺を止めてみろよ」
ぷぅっと頬を膨らませる秋葉に対し、レン左手で「来いよ」と合図を出す。それを見た秋葉は溜息を吐くが、既に聞き出す事を諦めてるようだ。
「――そだね。なら、遠慮なく行くよ!」
「あぁ、それで良い。さぁ、楽しい事をおっぱじめようじゃねぇか!」
発言後すぐに距離を詰める秋葉とレン。
鉄と鉄が激しくぶつかり合う音が辺りに轟く。お互い一歩も引く気配はない。純粋に力と力の勝負。一瞬でも気を抜けばその瞬間に切り捨てられるだろう。
だが、秋葉は敢えて力を抜きレンのバランスを崩す作戦をとる。押す方ばかりに力を入れていた為、レンは呆気なくバランスを崩した。
「ちっ!」
「――ぐっ!」
倒れ込むレンに一太刀浴びせようとしたのだが、地面に手を突きそこを軸にして振りかぶる秋葉に回し蹴りを放つ。見事に脇腹に蹴りが入り、勢い良く吹き飛ぶ。幸い地面は雪が積もっている為、直接地面に激突するのは免れた。
だが、かなりの隙が生まれてしまった。グズグズしてると次の攻撃を避けられなくなる。すぐに体勢を立て直そうと試みるが、レンはそんな隙すらも与えようとしなかった。
「――絶符『アブソリュート・ゼロ』」
スペルカードを宣言すると共に、レンの周りの温度が一瞬にして低下し、大小様々な氷塊が形成されていく。大きさは握り拳ぐらいだったり、頭よりも大きいサイズのもあった。氷塊はレンの周りをゆっくり旋回しながら浮遊している。
ある程度氷塊が形成されレンが手を前に翳すと、その氷塊達は不規則に秋葉へ向けて降り注ぐ。
(こ、これは避けれない!)
今からでは避ける事はほぼ不可能。雪降り積もる中で、的確な回避は無理に等しいだろう。かと言って、木々の後ろに隠れに行く事も秋葉のいる位置からでは難しい。
「くっ、間に合え! ――虚無『狭間への導き』!」
「……ん?」
秋葉は受け身を取りつつ、防御用のスペルカードを懐から素早く取り出し宣言する。透かさず氷影を目の前で縦に振り下ろすと、今まで使っていたスキマよりも大きなスキマが出現した。
そのスキマを見たレンは、思わず声を漏らした。
――漆黒を内に孕ませたスキマ……。文字通り中が真っ暗で何も見えないのだ。
紫と秋葉の使っているスキマは別物だが、構造自体は差ほど変わりない。普段のスキマは中に無数の“目”があるのだが、先程秋葉が開いたスキマにはその目が見当たらない。
その漆黒のスキマに、直撃コースだった筈の氷塊が吸い込まれるが如く入っていく。あくまで直撃しそうな氷塊だけだ。全部を取り込まないのには訳がある。要はこのスキマの許容量は無限じゃない。相手の弾幕量にもよるが、二、三回が限度である。それ以上は簡易で作り出したスキマが壊れてしまう。
だが、秋葉のスペルカードはただの防御用ではない。しっかりとした攻撃用のスペルカードでもある。
「――リバース」
「なん――!」
これ以上弾幕を張るのは無意味だと悟ったレンが宣言を解除するのを見計らい、反撃を開始する。秋葉の前にあるスキマとは別に、違うスキマが複数レンの周りに出現する。それだけならば大して動揺せずに対処出来るのだが、そのスキマから放出された“物”に問題があったみたいだ。
「ちっ! この氷塊俺のじゃねぇかよ!」
大剣で一発目の氷塊を粉砕し、すぐさま秋葉へ視線を向けるが――
「っ! クソが!」
「ほらほら、余所見してちゃ危ないよ?」
向きを変えようとするレンの眼前に現れる氷塊。多方向から次々と吐き出される氷塊を砕くだけで精一杯の様だ。飛翔する隙すら無い。しかも氷塊を次々と壊さないと、別のスキマに入り再度吐き出される仕組みになっている。
つまり、避ければ避ける程レンは不利になっていくばかり。避けると言う選択肢は初めからなかたって事だ。
止め処なく吐き出される氷塊を次々と粉砕しつつ、別のスペルカードを宣言しようとしてる秋葉を横目で睨みつける。
「使える物は有効活用しないとね。さぁ、まだまだ行くよ! ――奇襲『狐の嫁入り』!」
服に付いた雪を払い、二枚目のスペルカードを宣言。胸元に掲げたカードを手品の如く十本の銀製のナイフに変えた。氷影を地面に突き刺し、両手に五本ずつ持ったナイフを扇状に広げる。
投擲の類は何度かやった事はあるが、実戦では今回が初の試みである。――初ではあるが、投擲だけが策ではない。
「さて、“コレ”が避けられるかな?」
意味ありげな言い方をした秋葉は、手にしたナイフを煌めかせ、レン目掛けてナイフを放った――
ー ー ー ー ー ー
「互角――いえ、レンの方が若干上手かしら?」
紫は二人――秋葉とレン――の動きを見て、力量、技量を推測する。あくまでも紫から見ての判断であり、必ずしも当たっているとは限らない。
端から見れば秋葉がレンを圧倒している様に見えるが、紫からしてみればそうではないご様子。多方向から不規則に吐き出される氷塊を的確に粉砕出来ている……その点を紫は若干高く評価している様だ。
なら何故秋葉と評価が大差ないかと言うと――
「あくまでも“反応出来ているだけ”なのよね。まぁ、敢えて反撃しないって事もあり得るかもしれないけれど。
ねぇ、チルノちゃんはどう思う?」
「……そんな事より、紫は“理由”知ってるんでしょ?」
「あら、何の理由かしら?」
「……紫はいっつもそうだよね。まともに取り合ってくれた試しないもん。もういいよ、紫のペースに合わせるの疲れるし。
だってさ、レンの理由知ってるからあたいを連れてきたんでしょ? あたいに関係する理由だからだよね?」
「…………」
口元を扇子で隠し、黙り込む紫を鋭い目つきで睨みつけるチルノ。暫く沈黙が続いたが、「はぁ」と紫が深々と溜息を吐く。
確かに紫はレンの理由を知っていた……知っているからこそ話そうとはしなかった。だが、チルノを連れてくると言う事は何れは理由を話さなければならない。それを避けるのならば連れて来なければ良いのだが、紫はこうなる事を見越して連れてきた。
(最終的にレンを止められそうなのはチルノちゃんだけ。でも、理由を知ってからどう動くかしら?)
理由を聞いて、チルノがレン側に付いたら秋葉一人ではどうにもならない。そうなったら紫も秋葉に加勢すれば良いのだが、レンが能力を使ったらそれすらも叶わない。
(まぁ、そうなってしまったら異変解決のプロに何とかしてもらいましょう)
「良いわ。私の知ってる範囲内だけれど、レンの理由を話しましょう。でも、聞いた後で後悔したって責任は取らないわよ?」
「……分かった」
いつになく真剣な表情を作るチルノ。口元を隠していた扇子を閉じ、チルノの方へ向きを変え話し始める。
「レンの理由……いえ、目的は――」
ー ー ー ー ー ー
秋葉の手を離れた十本のナイフは、的確にとは言わないがレンの体へと迫っていく。このままだと数本はレンの体に深々と突き刺さる事になるが――
「んなのに当たらねぇよ!」
氷塊を砕いて出来た氷の礫を器用に大剣で弾き、迫り来るナイフを的確に撃ち落としていく。
(うん、ここまでは順調だね)
秋葉は撃ち落とされていくナイフを見据え、地面に刺した氷影を抜き、付着した雪をヒュンと“振り下ろす”。その行動が“ある仕掛け”の発動条件――
最後のナイフを撃ち落としたところで、スキマからの氷塊弾幕も終わったようだ。肩で息をしているが、まだまだ余裕の笑みを浮かべるレン。
「……ハッ、手の内は終いか?」
若干呼吸を整え、挑発を兼ねてそう秋葉に問い掛ける。ここで次の策がなければ、苦虫を噛み潰したような表情をするのだが、秋葉の場合はまだ策がある。いや、既に実行済みだ。
「レンこそ暢気に休んでる場合かな?」
「は?」
「でも、もう手遅れかなー」
ポカンとした表情のレンに秋葉は上を見るように左の人差し指を天に向ける。
上空には無数のスキマが広範囲に点在し、尚且つそこから数え切れない程のナイフが雨の如く降り注いでいる。レンが上を向いた頃には、既にナイフは到底避けられない位置にまで迫っていた。
「……おいおい、マジかよ」
「これでチェックメイトだね」
幅のある大剣で防ごうにも、その動作中にナイフはレンの体を貫くだろう。避けようにも数が圧倒的に多すぎる。範囲外に逃げる事も不可能だろう。
勝利を確信し、氷影を鞘に仕舞おうとしたが――
「――!?」
一瞬にしてレンの頭上に氷塊で出来た一本の橋が架かり、真っ直ぐに落下するナイフからレンを守る盾となった。しかし、強度はそれ程強くないみたいのか、すぐに砕けていくがそのたびに新しい氷の橋が作られていく。
このままでは全てのナイフが防がれてしまう。危機感を感じた秋葉は、氷の橋を作っている者を早急に叩こうと動いたが、顔を向けた途端動きが止まってしまった。
「そんな……なんで“チルノちゃん”が?」
初めはレンを一緒に止めに来た筈のチルノが、今はレンを守る側に移っていた。秋葉には何故チルノがそんな事をするのか皆目見当がつかない。 困惑と戸惑いで何も出来ない間に、全てのナイフを防がれてしまった。
チルノは掲げていた両腕を下ろし、レンのもとへと歩を進める。
「チル――ぐっ!!」
レンを助けたと思えば、次は顔面を思いっきりグーで殴りつけるチルノ。背丈の関係か、若干アッパーするような形でだ。
普段なら反射的に拳を受け止めるか、殴られてもよろける程度なのだが――流石に秋葉のスペルカードを耐え凌いだ後では、反応も遅れ殴られた勢いで後ろに倒れてしまった。上半身を起こし急に殴ってきた事を問おうとしたが、チルノは今にも泣き出しそうな表情をし、レンをキッと睨み付ける。
そんな表情をされてしまったら、問い掛けたくても出来なくなってしまう。言葉を詰まらせ困惑しているレンに、チルノは声を震わせ怒鳴りつけた。
「……レンの馬鹿! 何しようとしてんのさ!」
「な、何ってお前の為――「あたいはそんな事してもらっても嬉しくない!」――っ! 俺は……!」
今まで“チルノの為に”と思ってやってきた事を、本人に否定されてしまい、どうして良いのか分からなくなってしまっている。チルノを喜ばす為……そう思って行動してきた。
だが、現実は真逆の結果だった。喜ばすどころか逆に傷付けてしまっている。
今までレンがやってきた事は無意味だったのか……?
「畜生、何だってんだよ……俺はお前と“レティ”の為を思ってやってんだ! 何で分かってくんねぇんだよ!」
「分かりたくもないよ! あたいの為とか言ってるけど、本当は自分の為なんじゃないの!?」
「っ! 俺は……俺はッ!」
図星だったのか、チルノの言葉に反論出来ないでいる。いや、自分でも分かってないようだ。目を瞑り、チルノから視線を逸らす。
だが、ハッと何かを思い出したかのように顔を上げ、口元に笑みを浮かべた。ゆっくりとその場に立ち、ポーチから禁書目録を取り出す。
「……だよな、最初からそうすれば良かったんだ。ハハッ! 俺は――」
――偽符『七変化』
レンがスペルカードを宣言すると同時に、禁書目録から凄まじい量の魔力が噴き出す。その力により、チルノは紫のところまで吹き飛んだ。
手にした禁書目録が勝手に開き、凄い勢いでページがめくられていく。まるで強風がページをめくるかの如く。
よく見るとレンの容姿も変化している。背丈は若干高くなり、髪は金髪のロングストレート。きめ細かな白い肌に、水色のワンピース。胸元に赤いリボンが付いてるのが、アクセントなのだろうか。瞳の色は変わってないが、猫目に変わっていた。
未だにパラパラとめくられていたページを、バンッと左手で押さえる。すると、押さえたページの文字が濃い紫色に光り出した。
「――ずっとレティがいられる場所を作る! 俺自身の為にな!」
――禁書『第一の禁 -解放-』
スペルカードの宣言と共に、更に禁書目録の魔力が膨れ上がった。しかし、魔力量が増えただけで攻撃は一切ない。どうやら攻撃用のスペルカードではないようだ。が、油断は出来そうにない。
先程からレンが全力で此方を潰す気でいるのがひしひしと伝わってくる。氷影の柄を握り替えし、いつでも攻撃に対処出来るように身構える。
一瞬でも気を抜くとその瞬間に決着が着きそうな雰囲気だ。先手を打つか後手に回るか……どちらにするか迷う秋葉。判断ミスは許されそうにないみたいだ。
「――来ないのか?」
「……そう言われても、ねぇ?」
一向に攻めに来ない秋葉に痺れを切らしたレンがそう問い掛けるものの、苦笑いでしか答えられなかった。攻めるに攻めれないこの状況では、必然的に相手の出方待ちになってしまう。しかし、対処出来なければそこで終了だ。
秋葉が攻めに来ないと知り、小さく溜息を吐く。左手で頭をガシガシと掻いた後、新たにスペルカードを取り出す。
「待つのはあんま好きじゃねぇ。面倒だから此方から行くぜ!」
――禁弾『千の魔弾』
ーあとがきー
え?? もう内容覚えてないって??
ですよねーww
まぁ、なんやかんやで完成しましたよ。
今回は約五ヶ月……いやはや、遊びすぎましたね。
次こそはと思いましたが、次はいよいよ最終話なんですよ。
気合い入れて書かないと……ってな感じなのでまた遅くなります(-ω-;)
さて、何ヶ月掛かるかな??
私的には遅くとも半年以内には完成させたい。
いや、遅すぎるかww
ま、なるべく遅くならないように善処します(ぁ
では、次のあとがきでお会いしましょう(´ω`)ノシ
2011/3/3/22:54
‡*綻びへ‡‡狭間へ#‡
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