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東方時空録
『第三録…明かされる真実』
「はぁ? お前の偽者? いやいやいや、そんな話信じられるかよ」


「けれど本当の事なのよ。実際に私の偽者に会ったんだもの」


「そうかい。まぁ仮にだ、それが本当だったとして、証明出来る何かがあるのか?」


「ぐっ、それは……」


「で、でも魔理沙を襲ったのが偽者だったならアリスさんは――」


 場所は雪積もる中庭から、暖房(炬燵)のある居間へ。
 三人――アリス、魔理沙、秋葉――は炬燵に入り、ぬくぬくと暖まりながらお互いの意見を話し合っていた。が、全くと言って良い程埒があかない状態。アリスも魔理沙も、主張を曲げる気は一切ないらしい。たまに秋葉も会話に混ざるが、焼け石に水である。
 状況はアリスが圧倒的に不利。自分のアリバイを証明出来るものを持ってないだから。


「そだ、魔理沙から奪った本を持ってるか持ってないかで証明出来ないかな?」


「ん〜、それは無理だな。置いてきたって可能性が高い」


「で、でもてゐの証言では――「あれから時間が経ちすぎてるんだよ」……え?」


 魔理沙がうなだれながら秋葉の言葉を遮る。
 苦虫を噛み潰したかの様な表情で、襲われたのは深夜だと魔理沙が告げた。現在は正午になる一刻前ぐらい。で、アリスが来たのが十分程前の事。つまり、その間に奪った本を自宅に置いてくる事も出来るって訳だ。


「……本当は私もアリスを完全に疑っている訳じゃないんだぜ? だが、違うとも言い切れない」


「そうよね……私の言葉だけじゃ証明出来ないわよね」


「…………」


 どうやら魔理沙もアリスを完全には疑ってはいない様子。しかし、無実だって事をはっきりとさせたいが為に、疑ってしまう気持ちが強くなる。
 自ずと静寂が訪れた。全員俯き、誰一人として話を切り出そうとはしなかった。


(……魔理沙の容態的にこの案は出したくなかったけど、背に腹は代えられないよね)
「あのさ、私に案があるんだけど言って良いかな?」


「ん、あぁ良いぜ」


「えぇ、このままじゃ時間だけが過ぎていくだけだしね」


 一応許可は得た。だが、この案に決定するかは話した後の事だ。


「やっぱりさ、此処で言い合ってても意味ないと思うんだ。だから、みんなでアリスさんの家に確認しに行った方が良いと思う」


「まぁ、それが妥当なんだろうけどさ、私は満足に動けないんだぜ?」


「大丈夫、私がおぶって行くよ」


「けど外は雪が積ってるわよ? 背負いながら向かうのは厳しいんじゃないかしら?」


「えっと、それならスキマ使うから大丈夫、の筈」


「……スキマって紫のを?」


 アリスの反応を見て「あぁそっか」と声を出す秋葉。すっかり自分の能力を話した気でいたからだ。と言うか、説明する機会が無かったし。
 そんな訳で、簡単にだが能力の説明を開始。ま、“時空間を操る程度の能力”と言えば大体は分かるだろう。後はどのくらい操るかを述べれば十分な筈。


「成る程、咲夜と紫のいいとこ取りした様な能力って事ね」


「まぁそんな感じかな。で、話を戻すけど私の案で大丈夫だと思う?」


「ん〜、そうねぇ……」


「あ、私は構わないぜ。一度体験済みだしな」


「だってよ。アリスさんは?」


 露骨に決断を迫る秋葉。
 まぁ、移動に関しての問題が無くなった今、どう決断するかは分かり切っていた。


「怪我してる魔理沙ですら賛成するのなら、私も賛成せざるを得ないわ」


「んじゃ、善は急げって事でやり方を説明するよ」


「スキマで移動するのに説明がいるの?」


「あ〜、実は私のスキマはまだ完璧じゃないん――」


「この案却下」


「ふぇ? ちょ、違っ! そう言う意味じゃなくて!」


 アリスにそう言われ、慌てて説明を開始した――





ー ー ー ー ー ー






「――そんな訳で、移動は安全なんですよ、おk? 失敗しても、スキマにさえ入らなければね」


「まぁ、不安って事には変わりないけど良しとしましょう」


「んじゃ、さっき言った通りによろしく〜」


「えぇ、分かったわ」


 手短に説明を終え、何とか案が却下される事は防いだ。後はアリスの家までスキマを繋げるだけ……何だが、上手くイメージが纏まらない。更に集中する秋葉だったが、かなりのズレが生じていた。このままスキマを開いてしまうと、どこに繋がるか分かったもんじゃない。下手をすれば“いしのなかにいる”だ。


「ん〜、こりゃ駄目だ。ズレが酷すぎるよ」


「イメージの仕方が悪いのかしら?」


「んにゃ、何か干渉されてるような感じがする……」


 今まで見せた事の無い表情をしながら、秋葉はう〜んと唸る。こんな事は今まで生きてきた中で初めての体験だ。まるでその場にもう一人、空間を操る者が居るような――


「咲夜はもう帰った筈だから違うし……」


「ん? 何が違うんだ?」


「いやね、誰かが私のスキマに干渉してたから空間を少しでも弄る事が可能な咲夜かなって思っただけだよ」


「へぇ、成る程な」


「あ、それなら紫って事も考えられるんじゃないかしら?」


「多分ありえr――『ご名答』――うわっ!」


 突如魔理沙の背後から声が聞こえた。それと同時に魔理沙の両肩に手が置かれる。びっくりした反動でなのか、とても動ける状態じゃなかった魔理沙が反対の壁際まで移動していた。


「何もそこまで驚く事はないじゃない」


「む、無理言うなって。明らかに脅かす気満々だっただろ……」


 そんな事はないと言い張る紫だが、口元が笑ってますよ?
 まぁ、いきなりの登場でびっくりしたのは魔理沙だけじゃない。秋葉だってアリスだって身動ぎこそしてないが、びっくりはしている。本当に神出鬼没の人物だ。


「それで、貴女が秋葉だったかしら? 干渉されてるってよく気付いたわね」


 懐から取り出した扇子をバッと広げ、口が隠れる位置に扇子を持ってきた。下半身は未だに自身のスキマの中である。


「ん〜、いつもと違う感じがしたからかな。こう、自分以外の“何か”が入り込んだ感じ? よく分かんないけど」


「今現在の力でそこまで分かるのなら上出来ね」


「えっ」by秋葉


「えっ」by紫


「何だこの茶番……取り敢えず、マスパ撃っとくか?」


「収拾がつかなくなるから止めなさい」


 深々と溜息を吐いたアリスは、パンパンと二回手を叩き、脱線し掛けてる話を元に戻した。この場にアリスがいなかったら、確実に脱線していただろう>>アリス感謝
 さて、このメンバーの中に紫が加わった事で、話は大いに進むだろう。まずはアリス宅に向かい、魔導書の有無の確認。無かった場合は、真犯人の捜索だ。紫さえいれば、幻想郷中を駆けずり回る必要はなくなる。
 問題は紫が快く引き受けてくれるかだが……


「――と言う訳なの。お願い出来るから?」


「構わないけど、行くのは貴女(アリス)と魔理沙だけになるわ」


「は? どう言う事だよ紫」


「私と秋葉は別の場所に行くからよ」
(早めに手を打たないと厄介な事になるのは確実……)


「別の場所って、どこに行く気――っ!」


 更に問い詰めてこようとした魔理沙を、紫はスキマへと落とした。無論、行き先はアリス宅である。


「此処から先は詮索なしって事で」


「えぇ、分かったわ。でも、後々面倒な事になるんじゃない?」


「……その時はその時よ。あぁ、何かあった時の為に藍を向かわせておいたから」


「そう、ありがと。じゃあ秋葉、また後で会いましょう」


「了解。またね」


 そう言い終えると、アリスもスキマに入っていく。当然、スキマの向こうからは魔理沙の怒鳴り声が聞こえてきてる。が、問答無用でスキマを閉じる紫。確かに後々面倒な事になりそうだ。


(魔理沙大丈夫かな?)
「んで、何処に行くんですか紫さん」


「呼び捨てで構わなくてよ。……そうね、氷精のいる場所とだけ言っておくわ」


「氷……精……?」


「会えば分かるわ」


 そう言うと、紫はスキマを開く。行き先はどうやら何処かの湖のようだ。


「さ、行きましょう秋葉」


「了解」
(何の媒介も無しにスキマ繋げられるの良いなぁ)


 羨ましく思いつつ、紫の作ったスキマを潜り抜けると、そこは霧が掛かった湖だった。それ程濃い霧ではないので、視界はそれ程悪くはない。とは言っても、湖の向こう岸は見えないが。
 秋葉は何処か見覚えのある場所だと思ったが、この場所には始めてくる筈なのだ。「さて何処だ?」と考える暇は無いらしい。紫は既にある場所へ向けて歩き始めていた。見失わないように慌てて後を追う秋葉。
 視界を覆っていた霧が徐々に晴れ、木造の一軒家が見えてきた。どんな感じかはログハウスを思い浮かべてくれれば良い。


「あの家にその氷精ってのがいるの?」


「えぇ、出掛けてなければね」


「……アポ無しですかそうですか」


 はぁ、と溜息を吐く秋葉。まさかこれから会う人物と、会う約束すらしてないとは思いもしなかった。流石は“神出鬼没”と言われてる人物だな。
 頭をガシガシと掻き、いなかったらどうしようかと考えてる時だった。丁度家のドアが開き、中から緑色の髪の少女が出て来た。


「お久しぶりね、大妖精。元気にしてた?」


「えっ、紫さん……と、そちらの方は?」


「夜次秋葉と言います。突然ですが、氷精はいらっしゃいますか?」


「氷精……あぁ、チルノちゃんなら奥にいますよ。今呼んできますね」


 まぁ、なんだ? あっさりと会えてしまったな。これで外出中だった場合どうするかを考えずに済む。
 氷精とやらはどんな奴だろうと思考を巡らせる。家の中からは大妖精の声の後に、眠たそうな声が聞こえてきた。


「ほらチルノちゃん、お客さんだよ」


「ん〜、あたいに客って誰さ。……誰だコイツ」


「ちょ、それは失礼すぎるよチルノちゃん!」


「まぁ初対面だから仕方ないよ、大妖精さん」


 察するに、この眠たそうに目を擦る水色の髪をした子が氷精なのだろう。氷で出来た羽(目測)が如何にも「私が氷の妖精です」と言ってるようなもんだ。……秋葉に確信はないみたいだが、氷精はいるかとの問いに大妖精がチルノを呼んできたんだからそうなんだろう。そうであって欲しい。


「私は夜次 秋葉。今日はチルノちゃんに用があってね」


「……あたいに? 何の用?」


「えっと……紫パス」


「しょうがないわね」


「初めから私に用件言う気なかったくせに……」


「……何か言った?」


「イイエナニモ?」


 紫から目を逸らし、何も言ってないと白々しく嘘を吐く秋葉。この距離なら確実に聞こえている筈。要は遠回しに嫌味を言ったようなもんだ。
 小さく溜息を吐いた紫は、チルノの方へスッと体を向けた。


「チルノちゃん、私達と一緒にレンのところに行く気はない?」


「……意味が分かんない。何であたいがレンのところに行かなくちゃなんないんだよ」


 キッとチルノは紫を睨みつけるが、対する紫は全く動じてない。寧ろ、そう言う反応をされると初めから知ってるかのようだった。
 広げていた扇子をパチンと閉め、スキマへと仕舞う。今度は掌サイズのスキマを開いたかと思うと、チルノにスキマを覗くように促した。
 そこで紫が二つ目の質問をする――


「じゃあ、チルノちゃんはレンが何してるのか知ってる?」


「……何これ、冷気がレンに吸い込まれてる?」


「レンにって言うか、この黒い本が吸収してるみたいだね」


 スキマから見えるレンの左手に見覚えのある黒い本が抱えられていた。その黒い本は先程秋葉が言ったように、冷気を無尽蔵に吸収している。何の目的があって冷気を集めてるのかは分からない。


「……あれ? そう言えばこの本何処かで……」


「禁書目録(インデックス)と言う魔導書よ。秋葉、貴女が魔理沙に譲った本じゃない」


「ん? なら何で魔理沙に上げた本をレンが――もしかして、アリスが言ってた偽物とレンは何かしらの関わりがあるのかな?」


「……気になる?」


「そりゃあ、気にな――「紫、レンは何処にいんの?」――チルノちゃん?」


 今まで黙っていたチルノが、秋葉の言葉を遮り紫に問い掛ける。先程まで面倒がってた様な表示をしていたのだが、今は真面目な表示を紫に向けていた。そして、どことなく焦りも見え隠れしている。
 そんなチルノの変わりっぷりに、紫は待ってましたと言わんばかりに口元に笑みを浮かべて頷いた。


「そう遠くではないわよ。ま、近くって事でもないけどね」


 そう言った紫は、すぐさまレンのところへ繋がるスキマを開いた。そのスキマからは今いる場所とは桁違いの冷気が、まるで暴風の如く流れてくる。


「――寒っ! う〜、何この冷気……今まで味わった事ないくらい異常な寒さだよ」


「……あたいの勘だと“冬そのものの力”が渦巻いてるんだと思うんだ」


「あら、チルノちゃんにしては察しが良いわね。伊達に“氷精”って呼ばれるだけはあるわ」


「ふん、なんたってあたいはさいきょー(最強)だからね!」


 自分の胸に右手をあてがい、最強にアクセントをつけて胸を張った。ま、チルノ本人は小馬鹿にされた事に気付いてはないだろう。寧ろ、褒められたとか讃えられたとかに勝手に解釈してる筈。出なければ、此処まで態度をデカくはしないだろう。
 そんな態度のチルノに「はいはい」と笑みを浮かべながら、適当に対処する紫。下手に否定しても面倒な事になると悟っているからだ。


「へっくしゅ! ……うみゅ、要は自然の猛威って事かな」


「簡単に言えばそんなところね。さ、そろそろ行かないとレンがどっか行っちゃうわよ?」


「そだね。んじゃ、先に入ってるよ」


 凍える体を何とか動かし、紫が開いたスキマへと一足先に入る秋葉。入った途端「寒っ!」とまた叫んだのは言うまでもない。
 秋葉が入っていったのを見届けたチルノは、スキマから踵を返し大妖精の方へ向きを変えた。いつも以上に真剣な眼差しのチルノに、大妖精は思わず背筋をピンと伸ばした。


「大ちゃんごめん、レンの奴を止めに行ってくる」


「……うん、行ってらっしゃいチルノちゃん」


 大妖精も何かを悟ったのか、笑顔ではあるが内には険しさがあった。引き留めたい気持ちが大妖精の中にあったが、ここで引き留めてしまってはチルノの決意を無視してしまう結果になる。ここはその気持ちをグッと堪え、笑顔で送り出すのが妥当だろう。
 チルノと紫がスキマに入り、そのスキマを閉じきるまでの間、大妖精はみんなの無事を願いながら両手を精一杯振っていた――





― ― ― ― ― ―





 辺りを支配する冷気の暴風。これで雪が舞っていれば、呼び方が“吹雪”へと変わっていただろう。だが、雪は舞っておらず、冷気の風だけが吹き荒れているだけだ。これだけの寒さでありながら、雪が形成されてないのも不思議である。
 差し詰め、台風が来る前日の様な感覚だ。灰色の雲が掛かるが雨は降らず、ただ風が吹き荒れるそんな日の様な……


「冬の力なんか集めてレンは何がしたいんだろ」


「それは本人に聞いてみないと分からないわ。チルノちゃんは何か心当たりある?」


「全然。レンはいっつも一人で行動してるからあたいにも分からない」


 けど、とチルノが呟いた時、前方から雪を踏み締める音と共に、左手に黒い魔導書――禁書目録(インデックス)――を持ったレンが姿を現した。


「――何の用だ、お前等」


「ま、“アンタを止めに来た”って言えば分かるんじゃないかな?」






ーあとがきー



約九ヶ月振りの更新ですね(-ω-;)
いやはや、まさかここまで掛かるとは思わなんだ……

さて、物語はいよいよクライマックスに向かっております。
もう少し核心に迫る風に書こうと思ってましたが、出来上がりは謎が多めになっちゃいましたww

こりゃあ、タイトル詐欺かな??
ま、次の話で書くつもりなので少々お待ち下され。

ん〜、残り二話ってところかな??
では、次のあとがきでまた会いましょう(´ω`)ノシ



10/14/12:25

‡*綻びへ‡‡狭間へ#‡
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あきゅろす。
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