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東方時空録
『第二録…強まる冬の力』
「……こ、答えないんなら、無理矢理にでも聞き出すまでよ!」


「やれやれ、結局はこうなるのか。まぁ良い、“コレ”を試す良い機会だ。少々手荒だが、どいてもらうぞ? “アリス”――」


 アリスの偽者は施錠を施されている黒い魔導書をゆっくりと開く。その瞬間、禍々しい魔力が魔導書から溢れ出した。色で例えるなら“黒”、雰囲気で例えるなら“不気味”。そんな感じの魔力が魔導書を包み込んでいた。
 それを見たアリスは、眉を顰めて後退りした。直感で危険な魔導書だと察したのだろう。


「……何なのその魔導書、凄く嫌な感じがするんだけど」


「ん、それは俺も同感だが、今は必要な魔導書なんだよ」


「必要って、その魔導書を何に使う気?」


「……アンタに話す義理はない。ま、聞きたきゃ俺に勝つんだな」


 偽者はそう言い放つと、嘲笑うかのような笑みを浮かべた。まるで、勝機は自分にあると言わんばかりに。それと挑発している様な態度をとっている。そんな態度をとられ、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるアリス。


「私が偽者に勝てないとでも? 私も随分と嘗められたものね」


「嘗めちゃいないさ。そんな事するなら俺は――相手の意表を突く」


「あぐっ!?」


 偽者は瞬時にアリスに近付き、その土手っ腹に一発拳を打ち込んだ。その反動でアリスは前のめりになり、腕一本で支えられてる状態だ。腕を引くと無抵抗のまま倒れ、お腹を抱えうずくまりながら悶える。


「……前にも同じ様な事を別な奴にしたが、そいつは俺の攻撃を防いだぜ? ま、防いだっつっても吹き飛んだがな」


「げほっ! げほっ!」


「動体視力はアイツの方が上、か」


「なん、の話?」


「こちらの話。アンタには無関係さ。っと、危な――ぐっ!?」


 アリスの放った上海人形を難なく避けたのだが、背後から来ていた上海人形は避けられなかった。……いや、気付いていなかったのだ。何時の間に設置したのだろう。
 腹部を上海人形が使っているレイピアが貫いている。少量だが、血を吐く偽者。徐々に服は己の血で真っ赤に染め上げられる。
 レイピアを上海人形ごと掴み、勢い良く引き抜く。抜いた後、多量の血が流れ出ているが、傷口に手をあてがい何やらぶつぶつと呟いている。


「……嘗めてるからよ。甘く見ないで頂戴」


「いつつ……あぁ、嘗めてた事、は認める。なら、“全力で潰す”」


――恋符『マスタースパーク』


「きゃあ!」


 ほぼ零距離でのマスタースパーク(以降マスパで統一)。とっさに避けようとしたが、倒れている状態では大して移動出来なかった。直撃ではないものの、吹き飛ばされてしまうアリス。
 数メートル地面を転がり、木に激突して漸く止まった。マスパで地面は無惨にも抉れ、草木は一瞬にして消し飛んでいる。直撃でもしていたらどうなっていた事やら……
 服は土砂で盛大に汚れ、手足には擦り傷が無数に出来ていた。体を起こそうにも、手足に力が入らない。両腕を使って上半身を起こすだけで精一杯だ。


「……っ! な、何で魔理沙のスペカを?」


「ラーニングって言葉しってるか? ま、威力は本家より劣るがな」


「それが、その魔導書の力なの?」
(だとしたら相当厄介な代物ね……)


「いいや、魔導書の力じゃないぜ。今は傷を癒す為に使ってるが……ん、これ以上は力の無駄だな」


 偽物は魔導書を閉じ、ゆっくりと施錠を掛ける。その後、アリスの下に歩を進めた。身構えるアリスだが、身動きがあまり取れない今、抵抗したとしても虚しく終わるだけだろう。


「……止めを刺す気?」


「いや、無駄な殺生は好まないし、暫く動けなくするのが目的だったからな」


「全力で潰すんじゃなかったの?」


「初めはそのつもりだったが、集めた力が――ってそんな事はどうでも良い。それよりも良い事を教えてやるよ」


(集めた力? 何か裏がありそうね)
「……そう、それはどうも」


 皮肉っぽく返事を返すアリス。それを見た偽物は口元にうっすらと笑みを浮かべた。


「なぁ、“霧雨 魔理沙”は知ってるよな?」


「? えぇ知ってるけど、魔理沙がどうかしたのかしら? ……まさか、貴女魔理沙に何かしたの!?」


「さぁな……今は永遠亭に居るぜ。気になるなら自分の目で確かめな」


「永遠亭にって――あ、ちょっ! 待ちなさい!」


 言いたい事だけ言った後、偽物はアリスの目の前で、掻き消える様に姿を消した。まるで、霧が四散するかの如く。
 偽物が消える瞬間、アリスの姿から別の姿に変わったのを、アリスは見逃さなかった。見覚えのある者だったが、服装は違っていた。上下黒と灰色で統一されている服。唯一それ以外の色は黄色だろうか。


「……“冬の忘れ物”。もうあの妖怪が来る季節だったわね」
(でも、雰囲気が違ってた。また偽物なのなのかしら?)


 動ける様になるまでの間少々考えたが、やはり辿り着くのは“偽物”と言う線。自分の偽物を目の当たりにしたからだろうか。
 だが、決定的な判断材料は偽物自身の“能力”だった。“姿を変える能力”は、冬の忘れ物――レティ・ホワイトロックの能力ではない。あの魔導書の能力と言う線もあるだろうが、どのみち姿を変えれるって事には変わりはない。
 今後の行動が気に掛かるが、今はそれ以上に魔理沙の事が心配だった。動けるようになると、すぐに永遠亭へと行く事に決める。


(魔理沙……今そっちに向かうから、無事でいてね!)


 力強く立ち上がり、服に付いた雪と土を払うと、竹林方面へと飛翔した。傷付いた体に負担を掛けない様に、スピードはやや遅めである。
 先程まで穏やかに降っていた雪だったが、アリスが移動を開始した直後から強まってきた気がする。偽者との戦闘時は、殆ど雪は降っていなかった。たまたまだろうか……?
 吹雪になりつつある天候をモロともせずに、永遠亭へと急ぐアリスだった。




ー ー ー ー ー ー





「――永琳! 魔理沙が目を覚ましたって本当!?」


「えぇ、多少混乱しているみたいだけどね」


 勢い良くドアを開け、部屋の中に入る秋葉。確かに、魔理沙は目を覚ましていて、体を起こしていた。が、キョトンとした表情をしている。


「魔理沙、具合はどう?」


「あ、あぁ、大丈夫みたいだぜ」
(……私は確か、アリスに負けて本を奪われたんだっけ。ハハ、情けねーよな)


「良かったー、魔理沙がボロボロの姿で運ばれてきた時は焦ったよ」


「……ごめん」


「え? あ……ま、魔理沙は謝るような事してないよ」


 何時もよりも元気のない魔理沙に戸惑いを隠せない秋葉。急に謝られたら、誰でも戸惑う筈だろう。
 暫し沈黙があったが、大した長さにはならなかった。急に黙ったと思ったら、すぐに魔理沙がその沈黙を解いたからだ。


「……なぁ、誰が私を連れて来たか分かるか?」


「ん〜、分かるには分かるんだけど、てゐ情報だから定かじゃないかもよ? それでも良い?」


「あぁ、嘘だったとしても構わない。……気になってしょうがないんだ」


「そっか、分かった」


 秋葉の問いを二つ返事で返す。今はどんな情報でも、魔理沙は欲しいようだ。例え、それが嘘の情報でも――


「てゐが言うには“アリス”って人が運んで来たみたいだよ」


「……は? いやいやいや、それは何の冗談だよ!」


「え? わ、私に言われても……」


 “アリス”と言う名前を聞いた途端、魔理沙の様子が一変した。驚きと戸惑い、そして混乱……。此処に運ばれて来る前は、命すら狙われていたのだ。「何故」と考えれば考える程、頭は更に混乱し、訳が分からなくなる。


「一体どう言う事なんだよ……秋葉、てゐは今何処に居る?」


「さ、さぁ? 私も分かんないんだ」


「……そうか、なら探しに行く」


「ちょ!? まだ安静にしてないと駄目だよ!」


「だが、じっとしていられな――あぐっ!」


 てゐを探しに行く為に立ち上がろうとしたが、体に激痛が走り、その場に倒れ込む。間一髪で秋葉が魔理沙を受け止めたので、床へ直接倒れ込む事はなかった。


「もう、だから駄目だって言ったのに」


「……でも、此処でじっとしてても始まらないだろ?」


「だからって無茶して良いなんて事じゃないよ」


「それは分かってる……分かってるとも。反吐が出る程な」


「なら――」


 秋葉の言葉を右手で遮り、激痛が走る体に鞭打ってまで立ち上がった。苦痛に顔を歪める魔理沙。満足に動かない体で、出口へと歩を進める。
 ドアノブに手を掛けた魔理沙は、ドアを開けずに秋葉の方に体を向けた。


「私をこんな目にあわせたのは、その“アリス”なんだよ」


「……え」


「だからさ、本当にアリスが運んで来てくれたのかを知りたいんだ」


「魔理沙……」


 それだけ言うとドアノブを回し、ドアを開けたのだが、魔理沙の体は前のめりに倒れていった。思わぬ真実を聞かされた秋葉は、魔理沙を瞬時に助ける事は出来なかった。ドスンと言う音と共に体は床へと叩きつけられ、痛みから篭もった声が漏れる。
 傷も完治もしておらず、ましてや体力も回復しきってない状態で動くのは無理があった様だ。ドアまで辿り着けただけでも良い方である。


「くそっ、何でこんな時に動かないんだよ……畜生!」
(何でだよ、何でお前が運んで来たんだよ……意味分かんねぇ)


 床をドンッと叩き、自分自身を責める魔理沙。端から見ても焦っているのが丸分かりだ。這ってまで行こうとする行動もソレを表している。


「……むぅ、見てらんないよ」


 見かねた秋葉は、魔理沙にそっと手を伸ばす。差し伸べられたその手を見つめ、次は秋葉の顔を見上げる。


「一人で駄目なら二人で、二人でも駄目なら三人で。……水臭いじゃん魔理沙、もっと頼っても良いんだよ?」


「……だが――いや、お言葉に甘えさせてもらうぜ。ありがとな」


「フフ、困った時はお互い様。肩貸すよりもおぶった方が良い?」


「肩貸すだけで良いんだぜ」


「遠慮なさんな」


「撃つぞ?」


「おぉ、こわいこわい」


 魔理沙をからかいつつ、肩を貸す秋葉。立ち上がった後も、魔理沙はフラフラしており、とても一人で歩ける状態ではなかった。そんな状態で良くもまぁ此処まで歩けたものだと感心する。


「さて、何処から探していく?」


「そうだな……居間はどうだ? この寒さだし、流石に外にはいないだろう」


「了解。んじゃ、ペースは魔理沙に合わせるから、辛かったら遠慮無く言って。私がおんぶしてあ(ry」


「ほう、どうしても零距離のマスパを食らいたいようだな?」


「う、調子に乗りました、ごめんなさい。だから零距離だけはご勘弁を」


 謝罪をする秋葉だが、魔理沙は「自業自得だ」と言い八卦炉を秋葉の顔にあてがう。まぁ、本気で撃つ気はないのだが、これも魔理沙なりの仕返しだろう。
 そんなやり取りをしつつ、ゆっくりではあるが居間へと歩を進めていった。





― ― ― ― ― ―





「ちょ、出掛けた!? おいおい、マジかよ……」


「う、うん。結構前に出て行くところを見たわ」


「ありゃ、これはちと面倒な事になったね」


「? 何かあったの?」


「実は、かくかくしかじかってな訳なんだよ」


 優曇華に説明はしてみたものの、俄かに信じてない様子。永夜異変の時は、協力して異変を解決している。その後に、何かギクシャクしてしまったのか? と一つの可能性として予想する優曇華。


「で、危害を加えた筈のアリスさんが此処――永遠亭――に連れてきた理由を知りたい訳なのね」


「そう言う事だ。しかし参ったな、てゐがいないと確認が取れないぜ」


「だったら、てゐを探すより直接聞きに行けば良いんじゃない?」


「「鬼だね(だな)」」


「え? あれ? な、何で?」


 二人に「鬼」と言われた理由が分からないのか、少しの間戸惑っていた。まぁ、時間が経つにつれてその意味を少しずつ理解していったようだ。肩を貸さないとまともに歩く事も出来ない怪我人に対して、直接聞きに行く事を進めたのが理由である。
 漸く自分の言った提案が軽率な考えだった事を知ったようだ。


「ご、ごめん。そこまで考えてなかったわ」


「気にすんなって。そうなるんじゃないかって思ってたし」


「そーなのかー。頑張ってね」


「おい、秋葉が私の“足”になるんだぜ?」


「優曇華パス」


「私に振るな!」


 「え〜」と嫌そうに声を出すが、内心はそこまで嫌ではなかった。秋葉もまた、こうなる事を予想していたからである。
 あのてゐの事だ、大人しくしている筈がないとね。それでも駄目元で来てみたのだが、結果は予想通りだった訳だ。


「で、どうするの? 何処に行ったか分からないけど追ってみる?」


「そうだな……初めはそのつもりだったが、入れ違いになる可能性もあるしな」


「ねぇ、そもそもてゐを待つ意味あるの?」


「まぁ特に意味は無いんだが念の為にな」


 確かに待つ意味は無いが、本当にアリスが連れて来たのか、と言う確認が取りたかったのだ。……まぁ、嘘を吐いているかもしれない者に聞きに行くのもどうかと思うが。


「ま、此処でうだうだ言ってるよりは行動した方が良いな」


「だよね、早く炬燵で暖ま「アリスのところに行くんだよ」……さいですか」


 早々に暖を取りたい秋葉だが、それを許さない魔理沙。強引に外に向かい、秋葉を嫌でも動かざるを得ない状態にしている。今は一人では歩けない事を知ってる秋葉にとって、逆らう事は魔理沙を傷付ける事に繋がるからだ。
 汚いなさすが魔理沙きたない。


「わ、分かったから無理に引っ張らないで! また転んでも知らないよ!?」


「そん時はお前をクッション替わりにするさ。案外“胸”あるみたいだしな」


「!? な、何言っ(ry ちょ、触るなって!!」


 空いている左手で、秋葉の胸を鷲掴みする魔理沙。突然の出来事だったので、思わず声が荒くなってしまった。まぁ、こんな破廉恥な事をされれば無理もない。
 顔を真っ赤に染めた秋葉は、魔理沙の左手を払う。まぁ、再度触られる心配は無さそうだが、念の為左腕でガードを固める。「油断も隙もありゃしない」と心の中で思う。


「へぇ、お前でも喋り方荒くなるんだな」


「こ、こんな事されれば荒くもなるよ!」
(……認識が甘かったね。これからは用心しなきゃ)


 本来ならば、離れて抗議したいところだが、生憎魔理沙は負傷中。明らかに狙ったと思わざるを得ないタイミングだ。


「言っとくけど、次したら投げるからね」


「安心しな、次は体調が万全な時に――」


「魔理沙!」


「え?」


 永遠亭の外から魔理沙を呼ぶ声が聞こえてきた。キーの高さからして女だと分かる声。そして、必死さも感じ取れる。
 その声を聞いた途端、魔理沙の表情が一変した。話を途中で切り、声のする方向を見上げる。魔理沙の視線の先には誰が? と思った秋葉も、続けてその方向を見る。
 金髪のショートヘアーに、赤のヘアバンド。ワンピースにも似たような白と青色の半袖の服。胸元には白いフリルの付いた赤いリボンを着けた女性が居た。右手には年季の入った本を持っている。


「……アリス」


「はぁ、はぁ……良かった、無事みたいなのね」


「無事も何も、お前がした事じゃないか! あの後、此処に連れてきたんだろ!?」


「え? ちょ、ちょっと待って! 私は魔理沙が永遠亭に居るって聞いて来たのよ!? それに、何されたか知らないけど、私が魔理沙に危害を加える理由が無いわ」


「理由が無いって……力ずくで魔導書を奪いに来たのは理由に入らないのかよ!」


「私が? 貴女の魔導書を?」


「惚ける気か?」


「惚けるも何も、私はそんな事した覚えはないもの」


 どうも二人の意見が食い違っている。魔理沙はアリスがしたと言っているが、その事に身に覚えがないと否定するアリス。双方とも、怪訝な顔をする。
 片や第三者である秋葉は、この状況に戸惑っている。当事者でもなければ、目撃者でもない。口出しすら出来ないのだ。が、いつまでも言い争っているだけでは埒があかないと思い、二人の間に割って入る。


「い、言い争っても何も解決しないって。まずはアリスさんの話を聞いてみよう? ね、魔理沙」


「……分かったよ」





ーあとがきー



長期間の放置すみませんでしたorz
幻想入りやら仕事やらでなかなか手がつけられなくて……

ま、いつまでもくよくよしてちゃ駄目ってけーねが(ry
漸く話も終盤に近付き、最終話まで残り三話となりました。

予定では戦闘がメインになっていきます、予定では。
まぁ、クオリティは大した事ないと思いますがね。

んで、このグダグダ感を引きずりつつ、次回に続きます。
次のあとがきでまた会いましょう(´ω`)ノシ


1/30/22:45

‡*綻びへ‡‡狭間へ#‡
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あきゅろす。
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