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東方時空録
『第四録…見た目は変わらずとも……』
 あれから数日もの時が流れた。その間、縫合した箇所の状態や秋葉自身の状態などを、詳しく検査する為に、秋葉は永遠亭で過ごす事になった。
 左腕のリハビリも順調であり、特に異常は見られず、傷もほぼ完治している。……まぁ、完全に異常がない訳ではない。異常と言えば、“傷の回復速度”である。切断された筈の腕がものの数時間で接着するだろうか? 普通の人間なら、優に数ヶ月は掛かる筈。けれども、傷口は数時間で接着した。要は――“普通の人間”ではないと言う事である。
 この事を秋葉には話していない。秋葉も疑問に思ってはいるが、服用した薬の効果だと言って、永琳は誤魔化している。嘘を吐く事になるが、真実を言っても逆効果にしかならない。


「――特に異常はないわね」


「……この薬、本当に大丈夫なんですよね?」


「はぁ、貴女も心配性ね。ちょっとだけ眠くなる程度の副作用しかないわ」


「そうは言われても、治癒力をここまで高める薬なんだもん。副作用とか気にしますよ」


 確かに、治癒力をこれ程までに高める薬は存在しない。例え存在したとしても、それなりの副作用はある筈。それ程の薬の副作用が、高が眠くなる程度だと言われても、信じる事は容易ではないだろう。
 永琳は今日の分の薬を秋葉に手渡す。会話に出てきた、治癒力を高める薬(偽)だ。上辺ではそう言う薬として処方してるが、実際はビタミン剤と“輸血で使用した血液”を混ぜた物だ。無論、血液の鉄臭さはなくしている。血液が混じってると気付かれる事はまずないだろう。


「それに赤い錠剤の飲み薬なんて初めて見ましたよ。本当は鼠駆除用の薬じゃ……」


「そんな訳ないじゃない。これは貴女の症状に合わせて調合した薬よ」


「へぇ〜、そうだったんですか」


(フフ、素直な子ね。もう少し疑うって事はしないのかしら?)
「じゃ、いつも通り朝晩食後に一錠ずつ飲みなさいね」


「分かりました。では、いつも通りに庭の掃除してきますね」


「フフ、いつもありがとう秋葉」


 秋葉は一度会釈をして、部屋から退室した。現在は早朝。時間で言えば、だいたい七時を過ぎたぐらいだろう。まだ外は冷え切っている。その寒空の中、秋葉は竹箒を持って中庭へ向かう。
 もうそろそろ雪が降る頃なのだろう。雪が降る前の日辺りは、特に冷え込む。空は灰色の雲に覆われ、今にも雪が降ってきそうな空模様だ。


「うぅ、寒い。結構厚着してるつもり何だけどなぁ」


 永遠亭に来てからは、自主的に庭の掃除をしている。幾ら外が寒かろうが、じっとしていられないのだろう。何をするか考えた結果、庭掃除をする事にした。初めは遠慮されたが、頼み込んで何とかやれる事になったのだ。……庭掃除以外にも何かあるはずなのだが。
 永遠亭の庭は広く、その全てを掃除するのは容易ではない。一人でだと優に一〜二時間程度は掛かるやもしれない。それは一人だったらの話だ――
 せっせと掃除をする秋葉の下に、別の竹箒を持って駆け寄る者が居た。それに気付いた秋葉は、その者――“優曇華”に手を振る。


「げ、優曇華はマフラーだけで寒くないの?」


「まだ我慢出来る寒さだからね。そう言う秋葉もマフラーだけじゃない」


「私は相当中に着込んでるよ。それでも寒い――」


 ヒューッと、一陣の風が二人の間を吹き抜けた。硬直する二人。一瞬にして全身に鳥肌が立つ。厚着をしてる秋葉でさえも、さっきの風は堪えた様だ。ガクガクと体を震わせ、お互いの顔を見合う。二人の考えは同じ。


「サ、サッサと終わらせて中に入ろう。私も着込んでくれば良かったよ……」


「うん、そうだね。でも、こんだけ着込んでも寒いとは」


 秋葉と優曇華はそれだけ言うと、各々の持ち場へと向かう。動きは鈍くなってるが、それでも一時間以内には済ませられた。落ち葉も昨日よりはなく、木々の落葉も今日か明日には終わる頃だろう。
 竹箒を片付けた二人は、かじかんだ体に鞭打ち、炬燵を求めて居間へと向かった。今に辿り着き、炬燵に入った時の二人の顔は、輝かしい程の笑みを浮かべていた。
 それから数分間炬燵で暖を取った後、少し遅めだが朝食の準備へ。紅魔館では洋食だったが、永遠亭では和食のようだ。秋葉にとっては久方ぶりの和食だった。
 初めて永遠亭での食事は、懐かしい味を堪能出来た。幻想郷に来る前は碌な物を食べてなかったのだから。住む場所に困り、食べる物に困った。職も見当たらず、小さな山小屋を寝床として過ごす日々。こんな生活を強いられたのには、ある理由があるのだが……
 合間合間に雑談を交えつつ、朝食は三十分程で終了。後片付けは各自で行い、食器洗いなどは優曇華と永琳が担当。秋葉は元より水が苦手(特に流水が)なので、食器を棚に仕舞うのを手伝っている。


「そうだ、秋葉って水苦手なんだよね? そうなると何でお風呂は平気なの?」


「んぇ? ……ん〜、何でだろね?」


「ちょ、当本人が首を傾げてどうすんのよ」


「そう言われても、今まで考えた事無かったし……」


 秋葉本人も水が苦手なのに、何故お風呂が平気かは分かってない様子。今まで気にも止めていなかった。意識するかしないかの問題でもありそうだが。


「……例えばだけど、熱湯か冷水の違いじゃないかしら?」


「「それだ(です)!」」


「い、息ぴったりね」


 永琳の例え話に敏感に反応する二人。他に理由がないので、例えでも信じたくなるものなのだ。水が苦手なのにお風呂には入れる――その理由に温度の違いを当てはめてみても、何ら可笑しくはない。寧ろ、それであってるかの様にも思える。


「ねぇ秋葉、今度試してみない?」


「絶対ヤダ。下手するとお風呂にも入れなくなるかもしれないし」


「それもそうだね。ん〜、残念だなぁ」


「いやいや、全然残念な事じゃないってば」


 優曇華の反応に、苦笑いをしながら答える。お風呂に入れなくなるのは御免だからな。しかし、今試さなくとも、入る時に意識しては無意味だ。下手をすればリアルで入れなくなるかもしれないのだから……
 少々作業に支障が出たが、難なく後片付けを終える。今日は秋葉が紅魔館に帰る日だ。今更言うなと思った奴は、後で博麗神社に参拝に行くように。
 身支度と言う程荷物は無いので、手ぶらでの帰宅だ。万が一、何かあってもスキマに収納すれば良いだけの話。着替えなどの私物は勿論スキマ送り。


「忘れ物は無いわね?」


「あ、はい。大丈夫の筈です……多分」


「全く、仕方ないわね。万が一、忘れ物があったら届けに行くわ。“優曇華が”ね」


「え!? 私がですか!?」


「あら、不満でもあるのかしら?」


「いえ、そう言う訳じゃ……はい、分かりました」


 嫌そうに引き受ける優曇華だったが、表情は笑みが満ちていた。そんな優曇華を見て、「忘れ物があればいいなぁ」と思う秋葉。そうすれば、また優曇華と会える訳だ。ま、薬を届けるのは優曇華の役目なので、そんな事をせずとも会えるのだがね。


「ま、短い間だったけど、秋葉と居られて楽しかった。何時でも遊びに来てね」


「うん、こちらこそ楽しかったよ優曇華。暇な時にでも来るから」


「秋葉、兎は寂しいと死んじゃうから、そこんとこよろしく」


「ん〜、てゐなら大丈夫だと思うけどなぁ」


「いやいや、“優曇華が”だよ」


「あ〜、それなら納得せざるを得ないね」


「ちょ、ちょっと、納得しないでよ」


 困り顔の優曇華。それを見て笑うてゐと秋葉。微笑ましい光景だ。このやり取りを見てそう思う永琳の表情には、笑みの中に不安が見え隠れしていた。これから先、秋葉の見に起こる事が気懸かりでならない様子。
 あの血を輸血してから幾日、秋葉の身体の変化は目紛るしい程だった。
 異常なまでの治癒力――
 人間の限界を超える程の身体能力の向上――
 他にもあるが、この二つの変化が著しかった。確実に人外へと変態していっていると言える。しかし、外見は一切の変化が見られない。外見が変化しないのが唯一の救いだが、これから先どうなるかは分からない。ずっと変化の無いままなのか、それとも……


「……あれ? そう言えば輝夜は?」


「姫様なら、竹林へお出かけ中ですよ」


「へぇ〜、一歩も外へ出たがらなかった輝夜がねぇ」


 何の用事だろ? と考えたものの、途中で面倒臭くなって止めた。気にしても仕方ないだろうと判断したからだ。
 竹林の出口までの案内は、優曇華とてゐが担当してくれた。永琳はと言うと、輝夜が帰ってくる事を想定して、永遠亭で待つ事にした様だ。……まぁ、道中で妹紅と弾幕ごっこ(死合)をしていた輝夜を見かけたのはここだけの話。優曇華やてゐ曰わく、「あの二人の因縁に決着と言う名の未来はにい」、「哀れだなさすが蓬莱人あわれだ」との事。
 どんなに殺したくとも“殺せない宿敵”。憎しみや殺意だけが膨れていく日々。宿敵を殺せない事への悔しさと、永遠に死ねない事への苦しみ……


(半永久的に生きてる私には何となく分かるな……不死じゃないけど)


 秋葉の場合は自身の時(成長や老化)がストップしてるに過ぎない。不死とは無縁の存在であるが、寿命で死ぬ事はないのだ。つまり、寿命以外では死ねる。病気や怪我、飢餓などなど。
 ま、こんな辛い事を考える必要はない。そう割り切って、優曇華達と一緒に紅魔館へと歩を確実に進めていく。……飛んだ方が早いって? 秋葉は飛べません!





ー ー ー ー ー ー





 竹林を抜け、森を抜け、霧の濃い湖を横切り、漸く目的の場所――紅魔館へと辿り着いた。目の前にはいつも通りの真っ赤なお屋敷と、レミリアを筆頭にみんなが門前に立っている。懐かしいメンバーだ。永遠亭に行ってから、大した日数は経ってないのだが、秋葉は懐かしさを感じていた。


「みんな、ただいま」


「お帰りなさい、秋葉」
「秋葉さん、お帰りなさい」
「無事でなによりね」
「秋葉さんが留守中の間、本を探しておきましたよ」
「……秋葉ごめんね。今度はあんな事にならないようにするから」


 嬉しいのは分かるが、一度に喋るな。収集がつかん。が、誰が何を喋ってるかは分かるだろう。
 そんな中、レミリアだけが空気を読んだのか分からないが、ずっと黙り込んでいた。怪訝な表情を浮かべて……。レミリアは気付いたのだろう、秋葉の身に起こってる変化に。


「お嬢様、どうかいたしましたか?」


「……いえ、何でもないわ」


「? そうですか」


(可笑しい、何故秋葉が“半吸血鬼化”してるの? 永遠亭で何が……これは探る必要があるわね)
「咲夜、話があるから後で私の部屋に来なさい。秋葉もね」


「畏まりました」


「はい、分かりました」
(話って何だろ?)


 レミリアはそう言うと一人だけ中へ戻っていく。咲夜は律儀について行こうとしたが、「貴女は秋葉と一緒に居なさい」と断られる。この場に居た者全員が疑問に思ったが、深く追求する事はしなかった。と言うか、追求する理由が無いからだ。
 レミリアを除いた六人は、時間を忘れて話に没頭した。辺りが暗くなるまでずっと……





ーあとがきー



ここまでgdgdな話になるとは思ってなかったZE……
〆も最悪だしね(汗

初めは大丈夫な様な気はしたんだが、途中から可笑しくなってしまったorz
まさにあるぇー? 状態ですww

それにかなりの間が空いたしね(汗
しかも、かなり前の段階で五話は出来てたのに……

はぁ、多忙な時程駄作になる確率と更新速度が遅くなるのが確定的に明らかだね。
ま、仕方ないと言えば仕方ないよね(言い訳

では、引き続き五話をお楽しみ下さい(´ω`)ノシ

‡*綻びへ‡‡狭間へ#‡
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