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俺の守りたいもの

ミツバ編…その後捏造文。









いつも賑やかな新選組頓所内がまるで生気を失ったかのように静まり返った夜。
打ち付ける雨音がやけに大きく響く副長室で山崎は静かに口を開いた。

「副長…命令に背いてしまってすいませんでした…」

「いや…お前が援軍を呼んでなかったら多分俺は死んでただろうよ」

自嘲にも似た笑いを零しながら目を伏せてそう言う副長はやけに小さく見えて、普段鬼の副長だなんて呼ばれてるのが嘘のようだった。

それでもきっとこの人は誰にも心配かけないように、傷付いたそぶりなんて見せないように…自分のプライドの為に、必死に平然を装おうとしているのだろう。

「俺、副長に凄く失礼なこと言いました…。俺は…俺は何も分かっちゃいなかった…」


あの時ミツバさんの前に顔も出さず、しかもその婚約者を捕らえようとしている副長を薄情者だと言ってしまった自分が今になればひどく憎らしい。

この人はただ…自分の守りたいものを守り通そうとしていただけなのに。
あれは不器用なこの人なりの分かり辛い優しさだったのだと、どうして俺は気付かなかったんだろうか。

「副長の判断は間違ってなんかいなかったんです。……、ただ…」


間違ってなんかいなかった。
…でも、俺はあのまま一人で戦い続けるあなたの姿なんて見てられなかった。あなたに死なれるのが怖かった。…命令に背いてでも俺はあなたを助けたかった。

「…ただ?」

俺の言葉を静かに待つ副長の瞳が俺を捕らえた。
その目をじっと見つめて俺はゆっくりと、けれど打ち付ける雨音に負けないように口を開く。

「ただ俺は…守りたかったんです。あなたが自分の守りたいものを守ったように。……副長の命令に背いてでも自分の大切なものを守りたかったんです。」

副長、俺はあんたの命令に忠実に従う犬なんかじゃない。
…もしあんたが命を落とすようなことがあれば、例えあんたの命令であってもそれに背いてあんたを助ける。
俺はあんたの命を守る為なら何でもする…あんたの為の犬だ。

「…お前が守りてぇもん?お前は一体何を守ったってぇんだ…?」

「…副長、そんなこと聞くなんて野暮ですね…。本当は分かってんじゃないですか…?」

俺の守りたかったものは副長、あなたですよ…
…けど、ちゃんと分かってます。
あなたの心は彼女のもんだ、って。
だから…俺はあなたを守れただけで充分なんです。

そう思ったら自然に笑みが零れた。
でも、もしかしたらそれは自嘲の笑みだったのかもしれない。
俺を見ていた土方さんの表情が曇ったのが分かったから。

「…山崎、悪い。」

どうしてあなたが謝るんです?
どうしてそんな辛そうな顔、するんですか…

「ねぇ、副長…」

今だけでいいから、他の人を想いながらでもいい…だから、今だけは目の前の俺に甘えてはくれませんか…?

「……っ」

今だけは。



彼女を想いながら小さく震えるその獣を俺はそっと抱きしめた。





end.

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