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ただ、なす術もなく。


「山崎…別れてくれ…」

「…え?」

動揺を隠し切れずに山崎の大きな瞳が揺れた。長い沈黙が続き、ただ時計の針が動く音だけがこの部屋を支配する。
尤も、今の二人にとって時間など在って無いのと同じなのだが。
耐え切れず先に口を開いたのは山崎だった。

「…どうして、ですか…?」

聞き取れるか分からないくらいの小さく震える声で、たった一言それだけ呟いて山崎はその場に座り込んだ。途端に関を切ったように悲痛の声を上げ始める。

「…ッ!どうして…っ、愛してる、って、ずっとお前だけだ、って言ってくれたじゃないですか…!あれは、全部…全部嘘だったんですか!?ずっと俺をからかって弄んでたんですか…っ!?」

「山崎…っ!ちが…っ!」

「言い訳なんて、聞きたくありません…っ」

「山ざ…」

「土方さんの…嘘付き。」

そう言うと山崎は目の前に居る相手をキッっと睨み付けた。決して零さないようにしながらも明らかにその瞳には涙が溜まっており、心なしか怒りの色も見て取れる。
何か言おうと唇を動かしかけた土方が山崎の様子を見て今何を言っても無駄だと悟ったのか、その瞳から目を逸らすように俯くと、たった一言、悪い…とだけ呟いた。
それが更に山崎の怒りを煽ったのだろうか。先程までとは打って変わって冷たい声で山崎はこう続けた

「いいですね…土方さんは。俺を捨てても代わりの人なんかいくらでも居るし…」

「…は?」

「鬼の副長、ですか…。成る程、俺を捨てようが痛める心なんて持ち合わせてないんでしょうね。」

淡々とそう吐き捨てる山崎に思わず土方が声を張り上げた

「いい加減にしろっ!」

その声にビクッっと山崎の体が震え、堪えていた涙が容赦なく頬を伝う。

「…っ、なんで、ですか…っ」

震えながら俯いて涙を流す相手を見た途端、冷静さを取り戻した土方はバツの悪そうな顔をして黙り込んだ。

「んだよ…くそ…っ」
耐え切れずそう言って部屋を出て行こうとする土方の背後からは絶えず鳴咽が聞こえてくる。そんな声を聞きながら躊躇いがちに土方は襖に手を掛けた。

「い、やだ…っ、行かな、いで…下さ…っ、ひじか、た…さ…っ」

相手を引き止めるように山崎はそう言って立ち上がり、出て行こうとする相手に抱き着いた。全てを抱き留めてくれるこの大きな背中も、彼の温もりも、もう感じることは出来ないのかもしれないと思うと、再び涙が溢れてくる。
それでも山崎は引き止めなければならない、
目の前の愛しい人を。

「…好きなんです…っ」

「止めろ…」

苦し気な顔をして土方は相手を振り払おうとするが、山崎もめげずに言葉を紡ぐ。

「じゃぁ…っ、あなたを想うこの気持ちはどうすればいいんですか…っ!」

「知ったこっちゃねぇんだよ…お前のことなんか」

「土方さ…」

「もう…離せ、山崎。」

そう言って土方は無理矢理相手を振り払いその場を立ち去る。残された山崎は力なく座り込み泣き続けるしかなかった。
愛し合った事実はもう過去の物でしかなくなった。愛しいあの人はどんなに泣き叫んでも帰って来てはくれないのだ。




そして土方もまた、どうすることも出来ないこの現状になす術はないのかと静かに涙を零す他なかった。あの場所から出来るだけ離れた所に行くと柱に寄り掛かりズルズルとその場に座り込む。
そして誰にも聞こえない声でそっと呟いた。


「愛してる…退…」












*あとがき*
土方さんはどうすることも出来ない理由で山崎に別れを告げるしかなかったんですね。
暗くなってしまいましたがこの話は続きを描こうと思ってます…多分←

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あきゅろす。
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