百人力
「ミゼルさんか。でも、凄いよね。二十代唯一のマイスターなんでしょ?」
「うん。養母さんでも三十代で資格を取ったみたいだから。マイスター史上最年少だと思う」
マイスターとは魔具職人の中でも選ばれた存在で、魔具職人の頂点に立つと言っても過言ではない。熟練の職人が選ばれることもあり、ミゼルを除いたマイスターは四十代、五十代が多い。三十代もいない訳ではないが、本当に一握りだ。
アリアの養母であり、ミゼルの師匠イヴリースは三十代でマイスターとなった。魔具職人であれば、二十代で称号を与えられることがどれ程異例か分かるだろう。
マイスターには各々、鉱石や宝石の名が与えられる。ミゼルは瑠璃で、イヴリースが琥珀と言う様に。ちなみにクリスは金剛石だ。
「会いたくなった?」
「……うん。まだ何も話せてないし」
手紙で告白することは出来なかった。ミゼルはまだ知らないのだ。アリアの母が英雄と謳われた魔導師だと。リデルが対魔導師組織、黄金の暁を率いていることも。会いたい。会って伝えたい。
怖くないと言ったら嘘になる。何度話してもきっと緊張し、恐怖するだろう。ミゼルを信じられない訳ではないのだ。もしもを想像してしまう。アリアは強くなんてないから。
「大丈夫ですよ。ミゼルさんは受け入れてくれます。だって、『家族』ですから」
「……マリウス。ありがとう」
アリア一人ならきっと耐えられなかっただろう。
でも、自分の周りにはたくさんの人がいてくれる。誰かを思うだけで強くなれると、昔のアリアは知らなかった。
「その時は私たちも付き合うから。百人力でしょ?」
「僕たちでも一緒にいることは出来ますから」
「いっそ、ミゼルさんもウチに呼んじゃう?」
「もう、フィア。仕事でシェイアードへ行くって手紙にあったから、会えるかもしれないけど」
冬休みは間近に迫っている。今年はフィアナの言葉に甘えて、彼女の実家にお邪魔することになっていた。先日届いたミゼルの手紙には、マイスターの仕事で法都に滞在すると書いてあったから、運が良ければ会えるかもしれない。
もし会えたなら、両親のことを話そう。ミゼルの後にはイヴリースにも伝えるのだ。彼女の墓前で。
「母さんはアリアに何とかして貰うとして、マリウスは父さんをよろしく」
「そんなことしたらシオンさんが悲しむよ」
「久しぶりに帰るなら、仲良くしなきゃ。ね、フィア。約束」
フィアナの母や父と話せるのは嬉しいが、彼女ら親子には仲良くして欲しい。きっと、とてもあたたかで、親しみやすい家族なのだろう。
約束、と視線を離さぬまま微笑むと、フィアナは渋々頷いた。その後、こうなったら母さんのご機嫌を取らないと、彼女が瞳を煌かせていたのをアリアは知らない。
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