大切な存在
「別に聞いてない訳じゃないって。それにマリウスとは長い付き合いだから。腐れ縁?」
「そうとも言うかな? でも、君を学園に誘ったのは僕だから、腐れ縁は正しくないと思うよ」
少しだけ拗ねた顔になったフィアナは、睨むように幼なじみを見る。下手をすれば、両親より過ごした時間は多いかもしれない。
幼い頃、何かにつけて遊んでいた。フィアナはそんな日々を思い出して目を細める。
腐れ縁、はある意味正しくて、でも正解ではない。フィアナは昔から魔導師に憧れていたが、マリウスがいなければきっと学園にはいなかっただろう。
彼が誘ったから。下手をすればフィアナの父どころか一族全員を敵に回してもおかしくないのに。
「父さんは怒らなかったけど、よく無事だったよね」
「それは一応、父さんの息子だから」
呆れた顔のフィアナに対し、マリウスは笑っている。今は母方のラーグ姓を名乗っているが、彼の本名はマリウス・ヴィオン。その名が示す通り、聖人にして当代最強の悪魔祓い、そしてアルトナ教の教皇であるアルノルド・ヴィオンの息子なのだ。
いくら一族の者たちが不満に思っても、流石に教皇の息子には手を出せない。そんな二人を見ていると、つい吐息が漏れる。
「……何だか羨ましい」
「アリア?」
「幼なじみっていなかったから」
案じるような顔をするフィアナを安心させるよう、何とか微笑む。卑屈に聞こえただろうか。羨ましかったのは本当だ。
何も言えずにいるフィアナとマリウス。謝られる前にアリアは自分から謝った。
「ごめんね。いいの。気にしないで。二人を見てたら、つい」
だってそうではないか。言って何になる。どうにもならないではないか。それこそ言葉に困る、だろう。フィアナもマリウスも。
「でも、ほら、ミゼルさんもそんな感じじゃない? 幼なじみにしては大きいけど」
「大きいなんて、ミゼルさんに言ったら怒られるよ」
必死に言葉を紡ぐフィアナがおかしくて、つい笑ってしまう。確かにミゼルと過ごした時間は長い。正しくはないが、捉えようによっては似たようなものかもしれない。
出会った時、アリアは子供でも、彼女は既に大人だったが。
「確かに怒られそうですね。不思議な方だと思います」
「頼りになる“大人”なんだと思う」
ミゼルはイヴリースとは違うし、勿論、クリスやハロルドとも違う。不思議な安心感があるのだ。突き放すような言い方をしても、冷たい訳ではない。
言いながら、アリアは急にミゼルに会いたくなった。
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