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十分特別
「それに、彼女だったら反撃しそうだしな。護身術とか習ってるみたいだし」

 身のこなしと言い、何か護身術でも習っていたのだろう。確か槍を嗜んでいると言っていたはず。戦闘技術科専攻なら当然かもしれないが、彼女はミュレイゼル家の息女。良家の息女なら、スプーンより重い物を持ったことなどない者ばかり。

「護身術程度で済めばいいんだけど。ロッテの話によると、随分頑張ったらしい。まあ、そんな所も可愛いけど、洒落にならなさそう。運動神経は昔から良かったし、何かにつけて稽古に付き合わされたしな。綺麗になったはいいけど、おっかないのはなぁ?」

「俺に聞かれても。……レヴィの隣に並びたいからだろ」

 言いながらも、レヴィウスの口元は緩んでいる。本人に自覚はないかもしれないが、彼は彼なりにシャルロッテを思っているのだろう。
 彼女が頑張っているのは、自分の力を確かめるためであり、きっとレヴィウスと対等でありたいから。彼女は他の女性たちと同じではなく、“隣”に立ちたいのだ。淑女扱いして欲しい訳ではなく。

「……隣、か。ロッテはいつだってオレの隣にいるよ。お転婆で可愛くて、目が離せない女の子。お前にとってのアリアちゃんみたくさ、ほっとけないんだ。無条件で手を差しのべたくなる。だから厄介で、距離を置こうとしてた」

「分かる気がする」

 自分でも持て余す感情。どうしても目で追ってしまう。手を差しのべたくなる。理屈ではないのだ。庇護欲から来るものなのか、それとも別の何かなのか。
 レヴィウスが言いたいことを理解して、シェイトは苦笑する。身に覚えがあったからだ。

「百戦錬磨のレヴィが珍しいな」

「……あのなあ、オレは広く浅くなの。セレスタイン家の子息って手前もあるし、婚約者でもない子に特別扱いなんて出来ない。愛したら一途なんだけどさ」

 珍しく憂いを帯びた表情でため息を吐いたかと思えば、レヴィウスは悪戯っぽく笑って片目をつむる。彼は誰にでも優しい。
 だがそれは、裏を返せば、誰も特別扱いしないと同じこと。レヴィウスの年ならば婚約者がいてもおかしくないが、婚約者はいない。彼の両親がレヴィウスの意思を尊重してくれているから、らしい。

「……あの子は十分、特別だと思うけど、自覚なし、か」

「何か言ったか?」

「いや、別に。何でもない」

 シェイトの目から見れば、シャルロッテは十分特別だ。従姉妹であることを差し引いても。
 どうやら本人は気付いていないようだが。不思議そうな顔をするレヴィウスに気付かれないように笑い、シェイトは何でもないと首を振った。



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あきゅろす。
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