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天才の基準
「そりゃ、確かに彼女は天才だろうよ。堕天使召喚するなんて普通出来ないし」

「そうだな……。おまけに高位だ」

 リデル・メイザース。かつて英雄と謳われた魔導師。彼女は愛する者たちを無くし、全てから背を向けたのだ。その実力は言うまでもない。
 召喚魔術は、己より高位のものを呼び出す術。召喚対象に気に入られなければ召喚することは出来ない。

 堕天使を召喚するなど、生半可な力ではないのだろう。ただの堕天使ではない。あれは間違いなく高位の堕天使だ。
 クリスと同じく、魔導師としての才だけでなく、召喚魔術師としての才もあるのだろう。

「あのレベルになるとねー、比べるのもおこがましいって言うか。勿論、本人の努力故の結果だろうけど」

「レヴィみたいにな」

「誉めても何も出ないって。シェイトこそ、がむしゃらに勉強してただろ」

 いくら才能があろうとも、努力しなければ、磨かれる前の原石のようなもの。驕りは人の成長を妨げる。これでいい、これしか出来ない。そう言って諦めてしまえば、どんな才能も石くれ同然だろう。
 そしてレヴィウスも知っている。親友がどれだけ努力しているのか。

 シェイトはいつも無力さに嘆いていた。天才と謳われようと、満足することなく。急かされるように勉学に励んでいたのだ。
 それはかつて、大切なものを守れなかったからか。出会った頃の彼を突き動かしていたのは焦りだったのだろう。

「必死だったから。養父さんに少しでも追い付きたくて、今度こそ大切なものを失わないように必死だった。でも、どんなに力を付けても、焦りは増すばかりで……」

「オレはさ、シェイトみたく大事な人を亡くしたことはないけど、少しだけ分かる。虚しくなるんだよな」

 守るために力を求めたはずなのに、いつしかそれさえ忘れてしまいそうで。レヴィウスもはじめは、ただ純粋な気持ちだったのだ。
 父に負けないくらい、それ以上の人間になりたかった。彼の息子だと誇れるように。そのために何でも完璧に身につけようとして、いつしかその理由さえ忘れてしまっていたのだ。
 語るレヴィウスの空色の瞳に微かに宿ったもの。一抹の寂しさ、なのだろうか。

「……堕ちたる天使が彼女に応えたのは、もっとも人間らしかったから、かもな」

「愛と憎悪……か?」

「そっ」

 愛と憎悪は人間が持ちうる感情の中で、恐らくはもっとも苛烈なもの。彼女の場合は、哀しみ、もだろうが。
 リデルは彼と我が子を愛し、彼らを奪った者に激しい憎しみを抱き、哀しみに涙を流した。とても人間らしいと言える。だから、あの悪魔は彼女に応えたのだろうか。



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あきゅろす。
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