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狂った拳と書いて
「で、でもそれなら尚更、テストを頑張った方が良かったんじゃ……」

 フィアナとマリウスの話から、エレナの恐ろしさは十分分かった。何せ、クルスラー家の当主であるフィアナの父でさえ頭が上がらないほどである。エレナが怒る基準がどうなっているのか不明だが、どれほど厳しいのだろうか。
 初め、彼女の父――シオンはフィアナが学園に通うことを反対していた。それを許したのはエレナであり、シオンの反対を押し切った形になる。彼女がフィアナに厳しいのはだからだろうか。

 今まではマリウスの助けもあったし、アリアも出来るだけ力になった。ただ、今回はアリアも自分のことで手一杯だったし、フィアナもフィアナで、精霊論や術理という苦手分野が重なったため、中々に苦労したのだろう。

「保険よ、保険。アリアは母さんの怖さを知らないから……! 若いころは狂拳って恐れられてたくらいだし。誤解がないように言っとくけど、狂った拳と書いて狂拳だからね。付き合ってる時はおしとやかな美人だったみたいだけど、今はもまあ、見た目はね……」

「普段はとても優しくて、穏やかな方なんですよ。怒りさえしなければ。とても想像出来ませんし」

「狂拳……」

 わざわざ丁寧に説明してくれずとも分かるのだが、フィアナの怯えようは尋常ではない。どれだけ恐ろしいのだろう。会う前から彼女の母について、恐ろしい印象ばかりが増えていく。狂った拳とは危険な臭いしかしない気がする。
 普段は優しくて穏やか、綺麗な人。一度怒れば狂拳。しかし、狂拳と呼ばれていたとは、一体若い頃に何をやらかしたのだろう。
 エレナはクルスラー家の分家から嫁いで来たらしいのだが、今は完全にシオンが尻に敷かれる状態だとか。

「ね、ねえ、マリウス。母さん、どこかから見てないよね?」

「そんな大げさな」

 忙しなく辺りを見回し始めたフィアナを見て、ついアリアが零す。ここは学園で、彼女の実家があるのは法都シェイアード。
 距離だってあるし、見ているはずがない。同意を求めようとマリウスを見ると、何と彼までも神妙な顔をしていた。

「大丈夫だと思うけど、確かにそう思わせる怖さはあるね。あの含みのある笑みが特に。僕は大丈夫だけど」

「そりゃ、母さんはマリウス気に入ってるもん」

「……うん。何て言っていいか分からない」

 もう、どうコメントしていいか分からない。何から何までぶっ飛んでいる気がする。
 アリアは間違ってもそんな事態にならないよう、フィアナが赤点を免れていることを切に願った。



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あきゅろす。
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