決別、別たれた道
「答えはノーだ。君と共に行くつもりはないよ」
リデルの問いにクリスは間髪を入れずに答えた。
「残念ね。貴方の腕は買っていたのに」
「リデル、一つだけ聞かせて欲しい……どうして君はテロリスト紛いの活動をしているんだ?」
《黄金の暁》はリデル・メイザースを首領とする対魔導師組織と言っても過言ではない。学園や教戒を敵に回してもなお、かの組織は今だ在る。それは一重に天才と謳われたリデルは勿論の事、カーディナルと呼ばれる四人の実力者たちのお陰であろう。クリスの言葉に俯き、押し黙ったリデルは自嘲気味に笑った。
「人は愚かで、この世界は醜い。それが答えよ」
彼女の答えにクリスは首を横に振ると、慈しむように微笑み、こう言った。
「確かにこの世界は美しくは無いかもしれない。でも僕はこの世界を愛しいと思う」
そうだ。彼女の言う通り、世界は醜く、人は愚かなのかもしれない……。それでも僕は思うんだ。
君は笑うかもしれない。でも僕はこの“世界”に生きる“人”を信じてみたい。
「貴方には私の気持ちなんて分からないわ! 私が欲しかったのは富でも名誉でも無いッ!! 私が只一つ望んだのは、あの人と共に生きたいそれだけなのにッ!」
それはまるで訴え掛けるような悲痛な叫びで、クリスは居たたまれなくなり、目を伏せた。そう、自分が望んだのは細やかなものだった。彼の笑顔が見たかっただけ。ただそれだけなのに。
「僕は君では無いからね。でも君だって僕の気持ちは分からないだろう? 他人の心が分からないからこそ、人は言葉を交わすんだ」
人は普段嫉妬や侮蔑、欲望と言った感情を隠して生きている。もし他人の考えが全て読めるとしたらどうなる? きっと他人を信じられなくなるだろう。
人の心が分からないからこそ、人は言葉を重ねるのだ。他人を理解したくて、自分を理解して欲しくて。
「もういいだろう。そこを退いて欲しい」
……リデルは答えない。その間にも校舎を包む漆黒の炎輪は徐々に狭まりつつある。
「……嫌だと言ったら?」
「力づくで通してもらうだけだ」
「分かりやすくていいわ。それ」
初めから土台無理な話だったのだ。クリスとリデル。違いはあれど譲れないものが二人にはある。刹那、二筋の銀閃が交差した。
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