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憎むより
「……それじゃあ、帰ろうか。いつまでもここにいる訳には行かないから」

「はい」

アリアは頷いて、シェイトと共に歩き出す。朝の墓地にはやはり、人の姿はない。リデルを目にしたのは本当に偶然だが、こんな偶然などあるのだろうか。
かと言ってリデルがシェイトの前に姿を現した、ということはないだろう。

「……私も契約者が、あの人が正しいとは思えません。愛する人を失うのは本当に辛い。でもレヴィウス先輩が言ったように、それはあの人だけじゃない。私は失ったことを嘆くより、出会えた奇跡に感謝したいと思うんです。綺麗事なのかもしれません。私はあの人のように誰かを深く愛したことがないから、そんなことを言えるのかもしれませんが……」

シェイトの隣を歩きながらアリアは言う。誰かに聞いて欲しかったのかもしれない。アレクシスは愛しい人をなくし、教戒に恨みを抱くようになった。
彼らの間に何があったのか、アリアは知らない。
けれど、どんな理由があっても犯罪に手を染めていい理由にはならないのだ。

彼の墓でも言ったように、アリアはやはり、出会えた奇跡に感謝したいと思う。それは綺麗事かもしれない。
アリアがまだ身を焦がすほどに誰かを愛したことがないから、言えるだけなのかもしれない。

「俺も偉そうなことは言えないけど、アリアと同じだよ。綺麗事だっていいんじゃないか? 愛する人と出会わなければ、愛することだって知らなかったはず。何かを憎んでも虚しさだけが残る。なら誰かを憎むより、愛する方が満たされるんじゃないかな?」

綺麗事の何が悪い。どうせなら憎むより愛したい。そう思うのは間違いではないはずだ。少なくてもシェイトはそう思う。憎しみの果てにあるのは虚しさではないのか。
愛することで生まれるあたたかな気持ち。契約者も分かっていながら、全てから背を向けたのだろう。アリアやシェイトたちがそう言えるのは、当事者ではないからかもしれない。

「そう言えば、アリアは花束を? あの紫の花は一体……」

「はい、私は花束です。紫の花は私が来た時にはもうあって……」

答えながらアリアはもしかして、と思う。夜が明ける直前の空に似た淡い紫の花。その色彩を知っている気がする。一度はその可能性を否定した。だが本当に『彼』ではないのか。



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