不思議な感覚
何かに呼ばれたような気がした。その『何か』が何であるか、アリアには分からない。懐かしいような、それでいて胸が締め付けられるような不思議な感覚。アウローラの声だろうか。
アリアは突き動かされるように共同墓地に戻る。朝の墓地には誰もいないはずだった。しかし、
「あれは……」
アリアの視界に入った人影。一人は制服に身を包んだシェイト。そして残る二人は、黒髪の美女と青髪の美青年である。彼らが何者であるか分からぬほど、アリアも鈍くはない。
黄金の暁の首領、リデル・メイザースと彼女に従う堕天使ルシア。シェイトの手には大鎌が握られ、正に一触即発といった雰囲気だった。
離れて見ているだけでも恐怖が沸き上がってくる。ルシアはあのアスタロトと同じ高位の悪魔。人間が敵う相手ではない。凍りついたように体が動かなかった。
シェイトとルシアが向かい合っていたのは果たして何秒だったのか。
リデルが何か言うと、ルシアは肩を竦めて殺気を収める。彼が闇色の翼を広げた瞬間、リデルとルシアの姿は忽然と消えていた。
まるで全て幻であったかのように。悪魔の力を使って転移したのだろう。残されたシェイトは大鎌を消して地面に座り込む。アリアは弾かれたように走りだした。
「シェイト先輩!」
「アリア……?」
シェイトは驚いたようにアリアを見上げている。しかし驚いたのはアリアの方だ。何故、彼がここにいるのだろう。アリアのように契約者の墓参りに来たのか。こんな朝早くに?
恐る恐る辺りを見回すが、リデルたちが現れることはなかった。
「大丈夫ですか? 怪我はありません?」
「それは大丈夫。ちょっと疲れただけで」
「でもどうしてあの人がここにいたんでしょう?」
ゆっくりと立ち上がったシェイトの顔色はまだ少し悪かった。リデルやルシアと相対したのだから仕方ないのだろう。
シェイトは勿論だが、リデルたちのことも気になる。彼女らがここにいた理由はなんだ。
共同墓地に用があったからだろうが、彼女が纏う服は上下とも黒で、葬列の参加者のようだった。
「何でも契約者の墓に花を供えに来たって、堕天使が言ってたけど……」
「リデルさんがですか?」
「そう。俺も驚いたんだけど、本当みたいだ」
シェイトによると、ルシアはリデルが契約者の墓に花を供えに来たと言っていたらしい。
流石のアリアも驚きを隠せなかった。それはシェイトも同じなのか、何ともいえない表情をしている。
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