[携帯モード] [URL送信]
目の前の脅威
「おい、リデル。怖がられるぜ」

「それはルシアでしょ。貴方、曲がりなりにも高位の悪魔なんだから」

「曲がりなりにって酷くないか? これでもれっきとした高位の悪魔なのに」

茶化すように笑うルシアに、心外そうに眉を潜めるリデル。端から見ればただのじゃれ合いだというのに、シェイトは動けない。隙がまったくと言っていいほどないのだ。
下手に動けば怪我では済まない。冷や汗が頬を伝い、首筋を流れ落ちる。

黄金の暁の首領、リデル・メイザースは確かに脅威だ。クリスと並ぶほどの実力者で、かつて英雄と謳われた魔導師。実戦経験からして、シェイトとは天と地ほどの差がある。
しかし本当に恐ろしいのは彼女ではなくルシア。

今、こうして笑っていても、何かの拍子に気が変わってシェイトを殺そうとするかもしれない。例え召喚者の命がなくとも。
彼らはどこまでも奔放で、自らの欲に忠実なのだから。一度相対した時に感じた恐怖。あの時ほどではないにせよ、体が震える。

こんな時、養父であったなら、きっと堂々と彼らの前に立ったはずだ。恐怖を抱いていても、それをおくびにも出さずに。それが『クリス・ローゼンクロイツ』。
そのクリスの息子だというのに、動けない自分に腹が立ち、血が滲むほど強く唇を噛み締める。

シェイトは自分がどれほど子供で、無力だということも理解しているつもりだ。それでも悔しくて堪らない。強大な力の前では、人はやはり無力なのか。あのディヴァイン・クロウの時のように。
為す術もなく、一瞬で全てを奪われた。

「本当に何もしないわ。ここで会ったのも偶然だし。でも、おかしな真似はしないように。歯向かう人間を見逃してあげるほど、私はお人好しじゃないから。貴方のお養父さんと違ってね」

「そうそう、リデルちゃんは契約者の墓に花を供えに来ただけだから」

「契約者の……?」

リデルの黄金の瞳から殺気は感じられない。戸惑うシェイトを更に戸惑わせたのはルシアの言葉だった。
からかうように笑うルシアをリデルが睨みつける。

「ルシア、余計なことを……」

悪魔を信じる訳ではないが、リデルの反応からして事実なのだろう。墓前には一輪の花と花束が二つ。一体どんな考えがあるのか。
リデルにとって契約者は敵でもなければ味方でもないはず。わざわざ彼の墓を訪れた意味が分からない。
ルシアはそんな二人の反応を楽しむように静かに笑っている。



[*前へ][次へ#]

7/78ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!