[携帯モード] [URL送信]
馬鹿ではない
制服に身を包んだシェイトは、郊外に位置する共同墓地にいた。アージェンスタイン共同墓地は広大で、朝早いとは言え、人を探すとなれば大変だ。
シェイトの探し人は勿論、アリアである。
クリスが契約者の墓を用意したのは知っていた。アリアの部屋を訪ねると、フィアナが教えてくれたのだ。アリアは墓地に行った、と。

入れ違いになったのかもしれない。簡素な墓石の前には花束が二つと、花が一輪、供えられていた。一つは先に来たアリアだろう。ではもう一つの花束と、一輪の花は誰が供えたのか。
彼の死を知るのは、あの場にいた人間と悪魔、天使だけ。その中に花を供えるような人物は見当たらなかった。

果たして彼のために祈る、というのはどうなのだろう。契約者は教戒を、女神を恨んでいた。祈りなんて望まないかもしれない。けれど、今のシェイトには祈ることしか出来なかった。

短い祈りを終え、踵を返す。その瞬間、見覚えのある人物が視界に入った。
艶やかな黒髪の女性と青い髪が印象的な美青年。見間違えるはずがない。

あれは黄金の暁の首領、リデル・メイザースと彼女に力を貸す堕天使。何故、彼女がここに。
だが気づいたのはシェイトだけではなかった。悪魔が笑みを浮かべたまま、じっとこちらを見ている。それに気付いたリデルの視線がシェイトに移った。

黄金の瞳に射抜かれる。底冷えするような冷たい眼差しだった。満月と同じ、金色であるはずの瞳からは、ひとかけらの優しさも感じられない。
絶望でも虚無でもなく、ただそこにあるだけ。一歩も動けずにいるシェイトに、リデルたちが近付いて来る。

シェイトは腹をくくった。存在がばれた時点で、逃げても無駄だ。彼女は養父と並ぶまでの魔導師。逃げるつもりはない。その気になれば自分に追いつくことなど容易だから。

リデルはシェイトの目の前で立ち止まり、不敵に微笑んだ。

「また会ったわね。そんなに身構えなくてもいいわ。別に取って食ったりしないから」

「その言葉を信じろとでも?」

過去はどうあれ、今のリデルはクリスの“敵”だ。
魔力は兎も角、シェイトは彼女に遠く及ばない。加えてあちらには高位の悪魔もいるのだ。リデルは簡単にシェイトの命を奪うことが出来る。それでも警戒だけは怠らない。
例え彼女にそのつもりがなくても、悪魔を信用するほどシェイトも馬鹿ではなかった。



[*前へ][次へ#]

6/78ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!