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行き着く先
「呼ばれなきゃ来ちゃいけないんだ」

「当たり前でしょう。貴方が何を考えてるか知らないけど、それで本当に高位の悪魔なの?」

 いたずらっ子のような笑顔を浮かべたルシアは、本当に無邪気な子供のように見える。
 呼んですらいないのにこの世界に来れるのは、力ある高位の悪魔だけ。とてもこの世のものではない美貌といい、彼は間違いなく高位の悪魔だった。
 ルシアの真意はリデルにも読めない。何を考えているのか、本当に分からないのである。力を貸してくれる割に見返りを要求することもない。悪魔のくせに、だ。

「そういうリデルこそ、わざわざ契約者の墓参りなんて、よっぽど暇なんだ」

「暇な訳じゃないわ。私は契約者とは違う。それを言いに来ただけ」

 からかうように笑うルシアを見ても、リデルは顔色一つ変えなかった。暇つぶしに共同墓地を訪れた訳ではない。リデルは彼のようにはならない。そう言いたくて。
 契約者が言ったある言葉が、今もリデルの脳裏に残っていた。リデルも人を信じることが出来たなら、変わっていただろうか。
 いや、変わらないだろう。あんなことが起こらなければ、多くの者やリデルの愛しい者たちが命を落とすことはなかった。リデルの場合は人というよりは魔導師だろうが。

「でもさ、クリス・ローゼンクロイツもよく分からないな。殺されかけたっていうのに、墓なんて作るか?」

 ルシアの声にふと我に返る。惑わされている場合ではない。何かを信じる時など、とうに過ぎた。かつての親友でさえ、立ち塞がるのなら容赦はしない。
 それでもクリスのことを考えると、自然に笑みが漏れた。

「クリスらしいわ。結局、お人好しだから。哀れとでも思ったんじゃないかしら。……私のこともきっと止めるでしょうね。どんな手段を使っても、止めようとする。クリスなら」

 必要とあらば非情になれる彼だが、本当はお人好しなのだ。魔導師や学園長の時の顔とクリスは違う。
 “クリス”は紛れもなくお人好しである。自分を殺そうとした男の墓を用意するなんて。

「それでも進むんだろ?」

「ええ。進むしかないわ。例え先にあるのが深淵だとしても。その時は頼むわよ、ルシア」

 確認に近い問いにリデルは迷うことなく首肯する。親友と剣を交えることになろうとも退けない。例え行き着く先が地獄だとしても、進むしかないのだ。



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あきゅろす。
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