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もう一度、この世界で
 彼は、アレクシスはアリアのように考えることが出来なかった。それは責められることではないし、仕方のないことだろう。考え方は人によって違うし、憎しみは人の心を歪めてしまう。

「……アレクシスさん、貴方は確かに運命を憎んだのかもしれません。ですが、彼女と出会ったことを後悔しましたか? 失うくらいなら、出会わなければ良かった。そう思いましたか? 違いますよね」

 彼は確かに運命を憎んだかもしれない。しかし彼女と出会えたことを後悔しただろうか。
 きっと違うはずだ。例え失うと分かっていても、彼は何度でも同じ選択をするだろう。
 少し違うが、アリアだってそうだ。イヴリースを失うと分かっていても、彼女と出会わない道なんて考えられない。イヴリースがいたからこそ、今のアリアがある。

「……どうか貴方がリアさんと共に、もう一度、この世界で生きることを願っています」

 生まれ変わった魂は最早その人ではない。同じ魂でも別人なのだ。次に生まれて来る者は、アレクシスと同じ魂を持ってはいるが、アレクシス自身ではない。
 それでもアリアは願わずにはいられなかった。今度こそ、彼らがこの世界で共に生きられるように。

 アリアは一礼すると、簡素な墓に背を向けて歩き出す。その瞬間、誰かとすれ違った。
 顔は見えなかったが、長い髪からして女性だろう。ただ気配が薄く、周囲に埋没してしまいそう。何か引っ掛かった気もするが、深く考えずに墓地を出た。


 アリアとすれ違った女は、先程まで彼女がいた墓石の前で立ち止まる。女性の手にも小さな花束が握られていた。死者を悼む白い花。花言葉は、いつかまた会いましょう。
 女性と言ってもまだ若い。二十歳前後か、どんなに多く見積もっても二十代前半ほどだろうか。夜闇を思わせる艶やかな黒髪に、見入らずにはいられない金の瞳。息を呑むほどの美貌は正に芸術品。どんな美人でさえ、彼女の前では霞んでしまう。
 彼女は、一輪の花と花束の横に、携えていた花を置いた。

「……貴方は私だった。でも私は貴方のようにはならない。悪魔と契約なんてしない。絶対に私の力で復讐を果たしてみせる」

 彼女が紡いだ言葉はまるで宣誓のよう。女性、いや、リデル・メイザースはもう一度だけ墓石を一瞥すると、その場を後にした。
 墓地は静寂に満たされている。死者(彼ら)の眠りを妨げるものはもう何もない。



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