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愛すること
 アリアには彼の気持ちは分からない。それは自分が誰かを焦がれるほど、愛したことがないからだろうか。全てを捨ててまで彼は復讐を願った。
 もしアレクシスのそばに、彼の痛みを理解してくれる人間がいたのなら、こんな結果にはならなかったのか。それとも、彼は自ら伸ばされた手を振り払ったのかもしれない。

 彼はもうこの世にはいない。全てはアリアの推測に過ぎなかった。あの時、レヴィウスが言ったように、辛いのは彼だけではない。
 皆、程度の差はあれど、悲しみや辛さを抱えて生きている。抱えた苦しみを乗り越えて行く者が殆どだが、アレクシスはそれが出来なかった。
 最後に彼が見せた心からの笑み。アレクシスが言った言葉がアリアの脳裏に浮かぶ。

『……きみたちのように……思えたら、私も“こう”ならなかったのかも、しれないな。……けど、それでも、私はこの道しか……選べなかった。全てを、憎むことしか』

 本当にそうなのだろうか。目の前の墓標に問いかけたかった。どんなに理屈を並べても、時間が経とうとも、憎しみは消えない。愛と憎悪は人が持つ感情の中でもっとも大きなもの。
 不条理で溢れた世界。必ずしも道理が通る世の中ではない。そんな中で彼は何を思ったのだろう。愛しい人が死に、色褪せた世界で。

「……貴方は本当に全てを憎んでいたんですか?」

 これはアリアの独り言。全てを憎んだと彼は言ったが、本当にそうなのだろうか。全てを憎んでいたのなら、クリスの呪いを解く必要はなかった。早いか遅いかの違いであっても。
 命を削り、魂をも削った彼のことをアリアは何も知らない。知っているのはその名だけ。アレクシスと“彼女”を襲った悲劇でさえ、アリアは知らない。

「貴方のようにいつか私も誰かを愛するようになれば、貴方の気持ちが分かりますか?」

 揺れる髪を押さえて問いかける。家族や友人に対する愛とは違う。胸を焦がすような恋情を誰かに抱く時が来たら、自分も彼の気持ちが少しでも分かるのだろうか。いや、やはり“こう”思うのだ。

「でも、それでも私はいずれ訪れる別れを嘆くより、出会えた奇跡に感謝したい」

 今まで経験した全てがあるから、今のアリアがある。怒りも悲しみも全て、自分を形作るもの。別れはいつかやって来る。納得出来る、出来ないに関わらず。だから、必ず訪れる別れを嘆くのではなく、途方もない人々の中で出会えた奇跡に感謝したい。



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あきゅろす。
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