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灼熱の世界、魔獣強襲
初めのうち、アリアは目の前の状況を信じられなかった。むっとするような熱気に、視界を囲む赤ともオレンジとも言えない鮮烈な色彩。

フィアや他の生徒たちも同じようなもので、突然起こった炎に成す術もなく立ち尽くしている。
炎は広大な学園全体を囲むように広がっており、まるで外へ出さない為の檻のようだ。

その時、物陰から“何か”が飛び出し生徒の一人を押し倒した。
それは大柄な男ほどの体長に、全身を覆う黒い体毛。そして濁った血のような双眸を持つ犬に酷似した生物。裂けた顎からは唾液が滴り、生温い吐息が肌に触れる。男子生徒はあまりの恐怖に声を上げる事さえ出来ない。

『た、助けなきゃ……』

頭では分かっている。しかし体が、足が震えて動いてくれないのだ。
アリアを始め、誰も動かない。いや動けないのだ。学園に所属する魔導師には護身術の習得が義務付けられている。

だが、授業は所詮練習でしかないし、安全が保証されているのだ。実戦経験の少ない彼らにどうにかしろと言う方が酷だろう。

今正に強大な顎が生徒を噛み砕かんとしたその時、凄烈な銀の筋が閃いた。と同時にごとり、と質量を伴った黒い物体が地面に落ちる。それは犬らしき異形の首だった。

「……ひっ!」

「大丈夫か?」

「は、はい」
剃り返った片刃の剣をどす黒い血に染めた人物こそ副学長アレイスター・シュタイナーその人だった。

地獄の番犬ヘルハウンド……魔獣か』
アレイスターは異形を一瞥すると内心で呟いた。

身体を構成する精霊因子の調律が何らかの原因で狂ったり、闇に侵された獣を魔獣と呼び、精霊なら魔精と呼ぶ。本来なら獣や精霊は人に害をなす存在では無いのだが、狂った彼らは本能の赴くままに人を襲う非常に危険な存在だ。



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あきゅろす。
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