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彼が愛した世界
「君はこの世界が好きかい?」

いつだったか、彼が言った何気無い言葉。

「そういう貴方はどうなの?」

「僕はこの世界を愛しいと思う。だって世界はこんなにも美しい。そうは思わない」

精霊因子が舞い踊る様は幻想的で。子供みたいに目を輝かせ無邪気に笑う彼を見て、私は穏やかに微笑んだ。

「なら私は貴方が愛したこの世界を愛しているわ」

かつて自分が求めた唯一。今はもう亡い、そして永遠に手に入らないもの。


そこは青々とした木々が生い茂る森だった。小鳥や栗鼠を始めとした小動物に、鹿や熊も見掛ける。
縫うように生える木の隙間から陽の光が漏れ、神秘的な雰囲気を漂わせている。

『おい、リデル。まだか?』

そんな静謐な空気の中、遂に痺れを切らした青年が女性――リデルに声を掛ける。
リデルと呼ばれた女性の年齢は二十代前半と言え、艶やかな黒髪に煌めく星を思わせる金の瞳。何処か幼さを残した整った顔立ちに、妖艶とも取れる微笑みを浮かべる彼女は、美の女神さえ嫉妬を覚える程に美しい。

「後少し、もう少しだけ」

『早くしてくれ。こっちは戦いたくて仕方が無いんだよ』

青年は詰まらなさそうに欠伸を噛み殺すとばさり、と自らの翼を広げた。そう、彼は人では無いのだ。
透き通るような青の髪、深い碧眼。その背には昏き三対の翼が在る。

「さて、行きましょうか」

『待ってました』

『煉獄にて鍛えられし魔剣よ……我が声に応えよ! 汝、災厄を振り撒く呪われしもの。切り裂け、邪悪なる炎刃! 燃え盛れ、穢れし地獄の業炎よ!』

もし、今この瞬間を魔導師が見ていれば驚いただろう。普通なら考えられない速度で精霊因子が集束し、空中に複雑な紋様を描き出す。
精霊の詩が紡がれると同時に彼女が付けていたブレスレット、ピアス、指輪に象眼されていた宝石が音を立てて砕けた。

『レヴァン・テイン』



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