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今必要なのは
突然現れたクリスと見覚えのない女生徒に、教室内はにわかにざわめき始める。少女の方は教室のざわめきなど気にしていないようで、教室内を見回していた。

何というか他の生徒とは雰囲気が違う。学園指定の制服のはずなのに、袖口とスカートにはレースが縫い付けられている。品の良さそうな少女であるが、クリスが共に来た理由が気になった。

「みんな、静かに。彼女は今日から編入することになったシャルロッテ君。学園は本来、編入は受け入れていないけれど、特例として編入して貰うことになりました。シャルロッテ君」

「初めまして、皆さん。わたくしはシャルロッテ。シャルロッテ・フォン・ミュレイゼル。専攻は戦闘技術科です。以後お見知りおき下さい」

クリスに促され、少女――シャルロッテは優雅にお辞儀をした。その様は正に“お嬢様”そのもので、しかし彼女が口にした名に皆声を発することが出来なかった。
静寂が教室内を満たす。誰も口を開かない。

ラクレイン王国の中で間名を持つのは王族と四大公爵家の者だけ。
そして“ミュレイゼル”はセレスタイン家には及ばぬものの、四大公爵家の一つに数えられる大貴族である。

「が、学園長。ど、どういうことですか?」

静寂を破ったのはフィアナである。ばん、と机を叩き、勢いよく立ち上がった。隣のマリウスがフィア、と声を掛けるが、彼女はじっとクリスとシャルロッテを見据えている。

「彼女は君たちと同じく、魔導の才を持っている。編入を許可したことと彼女の身分は関係ない。シャルロッテ君の熱意に負けてね。彼女の力は僕が保証するよ」

「皆さんが戸惑うのも当然ですわ。多くは語りません。今必要なのは言葉ではなく、わたくしの力を見せること。どうか見ていて下さい。わたくしが学園に編入するだけの力を持っているか」

シャルロッテはしんと静まり返る教室内を見回して、凛とした声で告げた。
自分が本当に学園に編入を許されるだけの力を持っているか見定めろ、と言っているのだ。

「ではシャルロッテ君は席について。今日の魔術史の授業は僕が行います。さあ、皆、テキストの五十一ページを開いて。マリウス君、十行目から読んでくれるね?」

「は、はい。実用的とされる魔術が増えるにつれ……」

クリスは生徒たちの動揺などそっちのけでシャルロッテを座らせると、持っていた本を開いてマリウスを立たせる。
アリアもシャルロッテを横目で窺いつつ、どうにか教科書を開いて集中を試みた。




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