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懐かしい夢
久しぶりに夢を見た。懐かしい夢だ。あれは……そう、十年以上前のこと。レヴィウスはませた子供だった。それは認めよう。
父や母はレヴィウスに対して優しかったが、甘やかすことなく様々なことを教えてくれた。

しかし貴族社会は閉鎖的であり、聡いレヴィウスはすぐに自分がおかれた“立場”を知るようになる。
大貴族セレスタイン家の嫡子。それがレヴィウスの肩書きだった。

両親以外の大人たちなんてまるで信用出来ず、同じ子供だって煩わしい。
そんな時、一人の少女と出会った。降りられなくなった子猫を助けるために木にのぼったまではよかったものの、降りられずに彼女は泣いていた。

母と同じ亜麻色の髪とペリドットの瞳を持った少女。この頃から運動神経の良かったレヴィウスである。
軽々と木にのぼって子猫を助けた後、大丈夫だよ、と言って少女に手を差しのべた。彼女が自分の従姉妹だと知ったのは、それから十分ほど後のことだ。


「おい、レヴィ。どうしたんだ?」

声を掛けられてふと我に返る。目の前には少し心配そうな顔をした親友、シェイトの姿があった。
壁にかけられた時計を見ると、針は八時半を差そうというところだった。
教室内はいつもと相変わらず喋り声で満ちている。そろそろHRが始まる頃か。

「……ん? 何でもない。ちょっと懐かしい夢を見たからな」

思えばあの従姉妹は元気にしているだろうか。異国に留学しているため、もう何年も会っていないが。
あの懐かしい夢を見たせいか、彼女のことを思い出したのだ。

「なんだ、可愛い女の子の話〜? 俺様にも紹介してよー」

間延びした声が聞こえたかと思うと、ずしん、と座っているレヴィウスの背に結構な重さがかかる。誰かがのし掛かっているのだ。
それは声の主であり、レヴィウスの悪友とも言える人物。

「おい、人様の上に乗るな。暑い上に嬉しくない」

レヴィウスはがばっと立ち上がると、背後にいるであろう人物を睨み付けた。男にのし掛かられても全然まったくこれっぽっちも嬉しくない。
むしろ暑苦しいし、鬱陶しい。

「ちょ、俺様の扱い酷くない!? な、シェイトもそう思うだろ?」

「まあ、レヴィは特にアイドに冷たい気はするけど」

睨まれた少年は、心外そうに唇を尖らせる。いつもの二人のやり取りにシェイトは苦笑するばかり。へらり、と気が抜けるような笑みを浮かべる少年は、腰につくくらいの紫の髪と瞳の持ち主だ。
レヴィウス同様、制服は着崩しており、ネクタイも緩い。腕章のラインとネクタイの色はシェイトたちと同じ赤。つまりは戦闘技術科専攻ということになる。

「大体お前、異性苦手だろうが!」

「うっ……。それを言うなよ」

レヴィウスの指摘に少年――アイドは言葉に詰まる。口ではああ言っていたが、実は女性が苦手なのだ。
しかし彼の場合は苦手と言うより恐怖症に近いのではないだろうか。



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あきゅろす。
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