マテリアライズ
ユニコーンは女神の僕とも言われる幻の獣。人の目に触れる機会も少なければ、召喚に応じるなど滅多に無い。仄かに燐光を放つ白馬は美しく、神秘的で神の僕という事も納得出来る。
「……ふむ、ユニコーン。実体化(マテリアライズ)か」
ユーウェインの呟きに恐ろしい程の沈黙が落ちる。先も述べたが召喚魔術では仮初めの肉体を与え、力の一部を借りるのが一般的だ。
だが実体化(マテリアライズ)は仮初めの器では無く対象そのものを顕現させる。言葉でいえば簡単かもしれない。
それには召喚対象から真の許しを得、そして対象を構成する精霊因子を把握し、具現化する能力。その二つが不可欠であり、どちらが欠けてもなし得ない。
「……私って絶対召喚魔術の才能ないわ。だって精霊とか動物に好かれた事無いし」
フィアはがっくりと肩を落としぽつりと一言。
「で、でも精霊にだって好みとかあるってば。物好きもいるかもしれないし」
全然フォローになってませんよ、アリアさん。寧ろどん底に突き落としてます。
「どーせ私なんて……」
シェイトはそんな周りの状況を知ってか知らずか、ユニコーンの鬣や毛を優しく手ですいて行く。
ユニコーンはとても気持ち良さそうに目を閉じ、彼に全てを委ねている。余程シェイトを気に入っているのだろう。
「……よし、オークス。もういいぞ」
「はい。お前もありがとう」
静かな教室内でユーウェインとシェイトの声が嫌に響く。
『……女神の僕よ。汝が在るべき場所へ還れ』
角持つ白馬は彼の言葉に答えるように嘶くと、光に溶けて消える。と同時に授業の終わりを告げる鐘の音が静かに鳴り響いた。
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