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ロスト・エデン
フィン・ジェオード。その名は魔法医療師を志す者なら誰もが知っている。少なくてもマリウスは、彼より優秀な魔法医療師を他に知らない。
外見は自分たちより年かさの少年だが、彼は正しく、長い時を生きた魔導師。
その中で培われた知識や経験は、他の者には決して真似することが出来ない。

そんな彼に学べるとは本当に嬉しい限りだ。
ただその外見と柔らかな物腰から、マリウスを除いた魔法医療科の生徒たちには同名の別人と思われているらしい。

纏った白衣と眼鏡のお陰で、背伸びした生徒にしか見えないせいもある。

魔導師として素晴らしい人物が、教育者として必ずしも優れているとは言えない。
しかし彼の教え方は『上手い』。この中の半分はこの授業で、フィンに対する印象を変えただろう。

教本をただ読むだけではなく、具体的な例を出してくれるのだ。
その具体例が治癒魔術にとってどれほど難しいか。それは治癒魔術を扱う者にしか分からない。

「――皆さんならもうお分かりでしょうが、命属性の魔術には攻撃に関するものがありません。それは命の精霊因子が他と比べ、特殊だからです」

フィンの授業はなおも続く。命の精霊因子は正に命の源。単一の精霊因子である精霊でさえ、自らの属性と命の精霊因子より生まれるのだ。

命に属する精霊因子は他のどの精霊因子とも違い、攻撃には利用出来ないとされている。……一般的には。
言葉を切った、フィンの眼鏡の奥――瞳に鋭さが混ざる。

「……命とは即ち、全ての生命の源です。ですが逆もまた然り。癒すだけではなく、その力を反転させれば恐ろしい力を発揮します。治癒魔術を扱う私たちは、それを知らなければなりません。全ては扱う者の心次第」

マリウスは真剣な表情で彼の話に耳を傾けていた。命の精霊因子とは生命の力そのもの。強大な治癒の力を反転させれば、逆に命を滅ぼす力となる。
使い方を間違えれば神にも悪魔にもなる、フィンはそう言いたいのだ。

「皆さんの中にも、一度は聞いたことがある人もいるかもしれません。かつて一つの都市全てを灰へと変えた恐ろしい魔術がありました。ロスト・エデン。禁断魔術とされるそれは、命に属する魔術なのです。ありとあらゆる命を媒介として発動するこの魔術は文字通り、全てを灰へと還しました」

フィンの口から語られた魔術にマリウスは息を呑む。ロスト・エデン。それは人や植物など、この世界に生きるものの生命力を媒介として発動する禁断の魔術。
破壊へと転換された力は凄まじく無機物、有機物、問わず全てを灰と変える恐ろしい魔術らしい。



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