気休めでしかなくても
「あ、フィンさん。ここにどうぞ」
アリアは空いていた椅子を引き、フィンにすすめる。彼はありがとう、と礼を言ってそこに腰かけた。
フィンの外見は自分たちに近いため、とても講師には見えない。彼が醸し出す柔らかな雰囲気と丁寧な物腰もその理由かもしれない。
「これからよろしくね。僕は魔法医療師だから、どうしてもマリウス君と会う機会が多くなると思うけど、戦闘技術科にも顔を出すから」
フィンは魔力が高すぎるために身体が弱く、戦いに耐えられる体ではない。魔法医療師の資格を持っていることもあり、彼が講師をつとめるのは魔法医療科が多くなるだろう。
「フィンさんって強いっしょー? シェイトやアリアちゃんみたいに魔力抑えてんの?」
「よく気付いたね。そうだよ。ルチルのお手製なんだ。どうしても魔力のコントロールが上手くいかない時があるから」
レヴィウスが間延びした声音で、フィンの手首につけられたブレスレットを指した。彼の瞳と同じ藤色の宝石が嵌め込まれたそれは強すぎる魔力を抑えるためのもの。
シェイトのサファイアのピアスや、アリアが付けているガーネットのピアスと同じ。
強すぎる魔力を制御するための魔具を作ることが出来るのは、魔具職人の中でも一握りの人間だけ。
マイスター級と言っていい。未熟な者が作れば魔力に耐えきれずに砕けてしまうのだ。
「体は大丈夫なんですか? 養父さんのことも心配ですが、フィンさんに無理をさせる訳にもいきませんし……」
「僕のことは気にしないで。それより今はクリスさまだよ。たいした力になれなくて申し訳ないけど」
無理をさせられない、と言うシェイトに、フィンはふわりと笑ってみせる。
自分のことなど心配せず、今はクリスのことだけを考えろと言ってくれているのだ。
「……すみません」
「シェイトが謝ることないだろ。フィンさんだって学園長が心配なのは一緒だし。好意は素直に受け取っておけって」
「そうですよ、シェイト先輩。ミリアム先生だっていますし」
深々と頭を下げるシェイトに、レヴィウスが苦笑し、アリアが微笑む。フィンが体調を崩してもミリアムがいる。
それにこれはフィンの望みでもあるのだ。
「大丈夫ですよ、先輩。きっと何とかなります」
大丈夫なんて無責任かもしれない、気休めでしかないのかもしれない。けど、クリスはシェイトを残して逝ったりしない。少なくてもアリアはそう思った。
「……ありがとう、アリア」
「あついあつい。一体誰が気温上げてるわけ?」
「フィア……」
明らかにアリアとシェイトを茶化そうとしていたフィアナは、あきれたマリウスに軽く頭をはたかれたのだった。
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