臨時講師
登校したアリアたちが聞かされたのは臨時講師の存在だった。なんでも魔法医療師としてかなりの経験を積んだ人で、クリスからの後押しがあったらしい。
名まではまだ知らされていなかったが、もしかして“彼”ではないかとアリアは思う。
「やっぱり、臨時講師はフィンさんなんですか?」
「うん、ホントホント。俺聞いたもん」
アリアはフィアナやマリウスと共にシェイト、レヴィウスらとカフェテリアで昼食を取っていた。レヴィウスから聞かされた一言に、アリアもやはりと思っていた。だがそれはシェイトも同じだったらしい。
「確かに養父さんとは古い知り合いだし、“あの事”もあるからじゃないかな?」
クリスとフィンはかなり長い付き合いらしい。シェイトも詳しくは知らないが、少なくても自分の年齢より長い付き合いだとか。
熟達した魔法医療師である彼は講師としても最適だろうし、クリスに万が一のことがあっても対応出来る。あの事とは勿論、咎の烙印のことだ。
「でもルチルさん、許したのかな?」
たっぷり蜂蜜がかけられたワッフルを頬張りながら、フィアナは首を傾げる。ルチル・ティターニア。フィンの妻にしてマイスター、《金紅石》の称号を持つ魔具職人だ。
外見は自分たちと同じくらい、十代半ばほどだがクリスのように老いを止めているらしい。
虚弱体質の夫をつねに案じている彼女がいくらクリスの願いとは言え、簡単に許すだろうか。
「と言うことは学園長とルチルさんも古い友人ってことだよね? 学園長がわざわざフィンさんを講師にしたことで、何かあるって気付いたんじゃないかな?」
と答えたのはマリウスである。クリスがフィンと古い付き合いなら、妻であるルチルとも友人ではないのだろうか。
もしそうなら、彼がフィンを臨時講師にしたことで、何かを察したのではないか。
「うん。マリウス君の言う通りです。ルチルは多分、大方の事情は分かってたと思うよ」
とその時、突然聞こえた声にアリアたちは振り返る。柔らかく微笑んでいたのは十六、七歳ほどの白髪の少年だった。
男にしては大きいアーモンド型の瞳は美しい藤色で、服装は制服ではなく、髪の色と同じ真っ白のローブを身に纏っている。
『フィンさん!!』
皆の声が重なる。そう、そこに佇んでいた少年こそ、魔法医療師にして件のフィン・ジェオードだった。
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