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黒曜侯爵
「侯爵ごどきが偉そうに。前々から気にいらなかったんだよ、お前は」

「それはこちらとて同じこと。ルシファー様のお手を煩わせるとは、困ったものだ」

見下すように笑うアスタロトに男も冷笑を浮かべる。公爵であるアスタロトと比べ、彼は侯爵。
魔界での地位はアスタロトの方が上だ。
だが男も功績から考えると、本来なら公爵であるべき悪魔だった。

「黙れ、アモン!」

男の言葉にアスタロトがきっと眦を吊り上げる。びりびり空気が震え、周りを包む圧力が増した。下級の悪魔ならその圧力だけで消えてしまいそうな力がアスタロトから溢れている。
だが男は平気なのか、涼しい顔をしているではないか。

「私はお前のヒステリーに付き合うほど暇ではない。これはルシファー様の命である」

そう、彼こそ天使時代からのルシファーの盟友――黒曜侯爵アモン。力はアスタロトと同等、武芸の腕は魔界随一と謳われる剣士である。
それほどの力を持ち、ルシファーの盟友でもある彼が何故、侯爵の地位に甘んじているかというと、彼自身が望んだからだ。

だと言うのにルシファーは未だアモンを重用する。それがアスタロトには気に入らないのだ。

「言われなくても分かってるよ! どうせベリアルの所にも監視がついてるんだろう? 向こうはパイモンか? ボクはあいつと違ってルシファー様に背くつもりはない。まあ、ベリアルなんてどうでもいいことだけど」

ルシファーの命に背いたベリアルもアスタロト同様、領地での謹慎を言い付けられていた。
アスタロトのように監視されているのだろう。自分がアモンだとすれば、ベリアルにはパイモンの監視がついているはず。
何にせよ、アスタロトにはどうでもいいことだ。

何故なら、ベリアルは目の前にいるアモン以上に気に入らない存在だから。

「お前のことは前々から気に入らなかった。ルシファー様に気に入られてるからと言って……」

息をするのさえ苦しい魔力がアスタロトの周囲をおおっている。アモンのことは前々から気に入らなかったのだ。
武人のような性格も勿論そうだが、ルシファーに気に入られていることが何より許せなかった。

『あの方の隣とは言わない。だけどボクは……負けたくない』

ベルゼブルやあの忌ま忌ましいミカエルに敵わないのは分かっている。だがこの男だけには負けたくない。

「奇遇だな。お前こそもう少し自重しろ。ルシファー様にご負担をかけるつもりか?」

「うるさい! 分かってるって言っただろ!! ボクはルシファー様に負担をかけたい訳じゃない!」

怒鳴るなりアスタロトは、拗ねた子供のようにベッドに潜り込み、アモンを視界から締め出す。
残されたアモンは仕方のない子供を見るようにやれやれ、とため息をつくと姿を消した。



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