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悪魔たちの事情
魔界。人々が恐れ、おののく悪魔たちの世界。空は血のように赤い夕日に彩られている。広大な魔界の一つ――公爵であるアスタロトが治める領地は驚くほど静まり返っていた。
そしてその中心にそびえ立つアスタロトの居城。

公爵であり、ルシファーの側近である彼の城は贅の限りが尽くされており、その絢爛さたるや筆舌に尽くしがたい。
精緻な彫刻が施された大理石の柱に、床も鏡のように磨かれた大理石が使われている。

床の上に敷かれた絨毯は、言うまでもなく最高級品であり、金糸で獅子や霊鳥が縫い付けられていた。
城の随所に金や紅玉、青玉、翡翠、瑠璃、翠玉などの宝石が惜し気もなく使われており、そのことからもアスタロトの魔界での地位の高さがうかがえる。

しかし城内を行き交う悪魔たちの表情は晴れない。城の主であるアスタロトはここ最近、誰にも会おうともしない。
城の悪魔たちの表情が重く、静まり返っているのはアスタロトの怒りを恐れているためだ。

そんな城の主は天蓋つきの寝台に寝転がり、硝子張りの窓から魔界の景色を眺めていた。
血のように赤い光がアスタロトの髪や瞳を美しい赤に染めている。憂いを帯びた表情は、彼の美しさをより一層引き立てていた。

ルシファーの恐ろしさはアスタロトも天使時代から理解しているつもりだった。それなのにこの有様である。
アスタロトは両腕で己の体を抱きしめるように身を震わせた。

魔王ルシファー。敬愛すべき魔界の王である彼は高位の悪魔でさえ及ばぬ強大な力を持つ。
もしリフィリアでルシファーが本気で自分を消そうとしていたなら、彼は抗うことも出来なかっただろう。それほどまでに“魔王”の存在は絶対的だった。

「……こんなボクを監視して楽しい? 趣味悪いね」

身を起こしたアスタロトは、酷薄な笑みを浮かべて虚空を睨む。そこには誰もいないし、何もない……はずだ。しかし確かに“いる”。
なめられたものだとアスタロトは思う。

監視などしなくてもルシファーに逆らうつもりはない。いや、“彼”はわざと気配をもらしているのだ。
アスタロトの言葉に応え、何者かが姿を現す。

それは長身の男だった。澄み渡る空を思わせる青い髪に、切れ長の瞳は艶やかな黒曜石のよう。
鍛え上げられたしなやかな肉体の上に騎士を彷彿とさせる装束を纏っていた。

アスタロトとは正反対の、野生味溢れる美貌の持ち主である彼は、その尋常ではない美しさと纏う気配からして高位に属する悪魔だ。



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