アルノルドの分も
「そうだね。君が言いたいことも分かるよ。けど、他に方法は見つからない。これは聖人である君にしか出来ないんだ」
呪いの進行を抑えているとは言え、それもどれほどもつか分からない。今のクリスでは、魔力の糸を辿ることも出来ないのだ。
これは魔力を辿る者にも負担をかける。フィンにはとても頼めないし、悪魔の力を辿るのは危険だ。
その点、聖人であるラグナなら抗うことが出来るはず。
「ですが、クリス様の命を縮めることになるんですよ?」
「このままではどの道、長くはないよ。戦うにしてもこれ以上は待てない。僕の体が耐えられないんだ」
ラグナの言いたいことは分かる。それはクリスも重々承知していた。だが時は待ってはくれない。
険しい表情を浮かべるラグナに、クリスはゆっくりと自分が置かれた状況を話した。
クリスの体は呪いに蝕まれている。契約者、もしくはアスタロトと戦うにもこれ以上、待てない。体が戦闘に耐えられないのだ。
「君に迷惑をかけるつもりはないよ。契約者とは僕ひとりで戦う。これば僕の問題だから」
ラグナは好意から協力してくれているのであって、彼はクリスの部下ではない。
彼は教戒の異端審問官で悪魔祓いでもある。自分のために命をかける理由などないのだ。
「何をおっしゃっているんですか!? 私は猊下の分もクリス様のお力になると決めました! 悪魔や契約者と戦うのならば、私の力が必要なはずです!」
声を荒らげるラグナをクリスは驚きの表情で見つめていた。まさか怒られるとは思わなかったのだ。彼がこれほどまでに怒りを露にした場面をクリスは知らない。
当然、言い返す声も尻窄みのような形になるわけで。
「いや、でも……その。だって契約者、もしかしたらアスタロトだって相手にしなければならないんだよ? 命の危険だって……」
「命を惜しんでいたら悪魔祓いになどなれません! いいですね! 何がなんでも手伝いますから!!」
両肩を掴まれ、がくがくと揺さぶられる。ラグナの気迫にクリスも驚くばかりだ。フィンは呆気に取られて固まっている。
クリスはラグナを巻き込みたくなかったのだが、彼は違ったらしい。
アルノルドの分も力になる。そう言ってくれるだけでどれだけ嬉しいか。
「わかった。わかったから……離してくれないかな?」
「す、すみません」
ようやっとラグナから解放されたクリスはふう、と息を吐いた。目が回って気持ち悪くなったのは内緒である。
「さて、それじゃあ始めようか。フィンもここにいてくれるかな? 終わったら立っていられる自信がないから」
「はい」
クリスとて人間である。人よりずっと強大な悪魔の力に抗い続けることは出来ない。
フィンも一緒に呼び出したのは、全てが終わって立っていられる自信がなかったからだ。
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