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クリスを悩ますもの
クリス・ローゼンクロイツは学園長室でただ一人、業務に勤しんでいた。アレイスターやシェイトからは止めるよう言われているが、そういう訳にもいかない。
クリスにしか出来ないこともあるからだ。

それにただ寝ているというのも退屈である。自分は病人ではないのだから。積み上げられた書類に目を通し、必要なものには判を押して行く。

クリスの視線が乱雑とした机の上に置かれた首飾りに止まる。これはアリアから預かったもの。
記憶が封じられた魔具、メモリー・クリスタル。修復は既に済んではいたが、未だ彼女に渡せずにいた。

それは封じられた記憶に問題があるからだ。咎の烙印と並んでクリスを悩ますもの。
アリアに伝えていいのかさえ分からない。知りたいと彼女は言った。

しかし知らなければいいこともある。知ってしまえばきっと、後には戻れない。いや、あの記憶だけならアリアには分からないだろう。
分かったのはクリスだからこそ。

魔具に封じられていたのは、最後の記憶だった。愛する者たちに向けられた。
それを目にしてしまえば、涙を堪えることが出来なかった。自分もまたそうやってシェイトを置いて行くのだろうか。

「クリス様、いらっしゃいますか?」

「……いるよ。フィンもラグナ君も入って来るといい」

突然聞こえた少年の声に、クリスは慌てて首飾りを引き出しに隠す。そして平静を装って声を掛けた。
扉の向こうから入って来たのは少年と青年である。

白雪を思わせる白い髪と穏やかな藤色の瞳。
抜けるように白い肌に、純白のローブを纏った少年はまるで雪の精のようだ。

もう一人は何というか派手な青年である。黄金色の髪はまるで金の稲穂を思わせる。端正な顔の右半分を白い仮面で隠しており、金緑と琥珀のオッドアイが何よりも印象的だった。

「またお仕事をなさってられるんですか? シェイト君やシュタイナー先生から止められていたはずですよね、クリス様」

「簡単な仕事だけと約束したのはいつでしたかね?」

白髪の少年――魔法医療師、フィン・ジェオードと黄金の髪をした青年、ラグナこと悪魔祓いハロルド・ファースは冷や汗をだらだらと流すクリスを笑顔で見つめる。
特にフィンの笑顔が恐ろしい。虚弱体質とは言え、クリスほどではないが彼は長い時を生きた偉大な魔導師なのだから。



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