若作りのおっさん
何というか落ち着かない。それが登校したシェイトの偽らざる気持ちだ。いつも以上に感じる視線は正に様々である。窺うようなものから、面白がるものと実に多様だ。
誰も突然の休学と復学について聞いてこないことが更にシェイトを憂鬱にさせた。
「……針のむしろだな、これは」
「我慢しろって。深く突っ込んで来ないだけマシだろ」
はあ、とため息をついたシェイトにレヴィウスがしーっと自らの唇に人差し指を当てる。
皆、内心は聞きたくてうずうずしているに違いない。それはシェイトも分かっている。しかしこれでは生殺しではないか。
あの後、シェイトはあっさり学園に戻って来た。最後に異母兄弟であるレナートに挨拶出来なかったのが悔やまれるが、その辺は父が上手くやってくれるだろう。
父と自分の間に横たわる溝は深いが、少しでいい、これから埋めて行ければと思う。
「……ま、良かったな。親父さんとのこと」
「ああ。でも、レヴィには複雑だろ?」
頷きながらもシェイトは素直に喜べずにいた。レヴィウスはあまりオズワルドが好きではないらしい。
色々と黒い噂があるため当然かもしれないが、何と言うか申し訳ないのだ。普段オズワルドを公爵と呼ぶのに、親父さんと呼んだのもその辺りを配慮してくれてのことだろう。
「馬鹿。俺の心配はいいんだよ。シェイトは自分のことだけ考えろって。確かに、あのいけ好かない野郎がお前の父だって言われて気に入らねえけどさ、父であることに変わりないだろ。どんなに腐ってても、若作りで腹黒なおっさんでもな」
「……いくら何でも酷くないか?」
机に手をついて力説しているレヴィウスに、シェイトは脱力しそうになった。気にするなと言っていたはずがどんどん白熱し、最後は悪口になっているではないか。
人の父を腐ってるや、若作りで腹黒なおっさん呼ばわりするのは流石に酷くないだろうか。
確かに策略家と怖れられていたり、どう見ても三十代半ばには見えないが。何と言うかレヴィウスがすごくオズワルドを嫌っていることは分かったシェイトであった。
「あ、いやー……。つい本音が(冗談だって)」
「……本音と建前逆になってるぞ」
「はっ、俺としたことが!」
はいはい、と適当にレヴィウスをかわしながらシェイトは若干辟易する思いである。
元気なのはいいが、朝っぱらから遠慮して欲しいものだ。シェイトははあ、と本日何度目になるか分からないため息をついた。
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