ファンクラブ
突然の休学から一週間。学園中がシェイト復学の噂で持ち切りだった。無期限とされていただけに噂が広がるのも早く、月曜の朝には誰もがその噂を知っている事態である。
アリアがフィアナと登校している間も、聞こえて来るのはシェイトのことばかりだ。
突然の休学から復学と目まぐるしい状況の変化に、様々な噂が飛び交っているようだ。
「なんだかオークス先輩の噂で持ち切りだよね。人の口に戸は立てられないって言うけど、いくら何でも早過ぎじゃない。やっぱりさ、ファンクラブ、もとい親衛隊の差し金ね、これは」
フィアナはわざと声を潜めて隣のアリアに耳打ちする。
アリアはよく知らないのだが、シェイトやレヴィウスには親衛隊なるファンクラブが存在するらしい。アリア自身は実際に目にしたことがないため、らしいとしか言えないのだが。
「ファンクラブ、かぁ……でも私、一度も見たことないよ?」
「そりゃそうよ。親衛隊は別名、影から見守り隊だもん。しつけが行き届いてるんじゃない? じゃなきゃ私たちなんて一瞬で干されてるわね」
「干さ……」
さらりと言ってのけたフィアナに、アリアは驚きに目を見開く。流石に干されるのは遠慮したいところだ。
知りたくもなかったファンクラブの恐怖を知ってしまったアリアである。
「あ、シュタイナー先生」
アリアの視界に入ったのは頭の先から靴の先まで真っ黒の男性――アレイスターだった。
彼はいち早くエセルドレーダと共にセレスタイン領を出て、シェイトの復学の手続きを済ませてくれたのだ。
礼を言おうと近寄ると、彼のそば――足元に何かいることに気付く。愛らしい子犬である。ふわふわした黒銀の毛並みに長い尻尾。
ぴんと立った耳と、瞳はまるで宝石であるかのように美しい常盤色をしていた。
「か、可愛い……」
「あー……、もしもし? アリアさん?」
あまりの可愛さにアリアにはフィアナの声さえ届いていない。
思わず子犬を抱きしめて頭を撫でると、
『ううむ。苦しゅうない、もっとやるがよい』
気持ち良さそうに目を細め、子犬が喋ったのだ。まさか喋るとは思わなかったので、隣のフィアナも目を丸くしている。
アレイスターは相変わらず無表情で何を考えているのか分からない。すると彼は呆れたようにため息をついた。
「ハイウェルたちが驚いてるぞ、エセル」
「え、エセルさん!?」
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