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宴の始まり
「でもそれって確かなの? クロイツェル公爵に隠し子がいたらかなりのスキャンダルじゃない」

閉鎖された社交界でのスキャンダルは致命的である。クロイツェル公爵家はセレスタイン家には及ばないが、それでもこの国の最高位の貴族だ。

だと言うのに、オズワルドがそんな危険を冒してまで息子を引き取るというのか。
そこまでのリスクを負う必要がどこにある。フィアナはそう言いたいのだろう。

しかしそればかりはレヴィウスにも分からない。
彼でさえオズワルドの真意を掴みかねていた。

「シェイトを利用するつもりなのか、正直俺も公爵が何考えてるのかさっぱりだ。オズワルドはああ見えてかなりの切れ者だし、策士だからな」

見た目だけなら童顔で優しく整った顔立ちをした男。初対面の人間が抱く感想だ。
だが彼の本質は到底外見から推し量る事は出来ない。ある意味ではレヴィウスと同じなのだ。もっともレヴィウス自身は認めたくないが。

「僕は公爵をよく知りませんが、オークス先輩が学園を去るとはどうしても思えません」

マリウスはクロイツェル公爵について殆ど知らない。しかしシェイトについては多少なりとも知っているつもりだ。
彼がアリアやレヴィウスをおいて学園を出、父の元へ行くとはどうしても思えないのだ。

裏を返せば戻らねばならない理由があるのかもしれないが、それでも突然の休学はおかしい。

「それは……」

「学園長がさ、呪いに侵されてる。公爵はそこにつけ込んだらしい」

躊躇ったアリアに代わり、レヴィウスが口を開いた。下手に嘘を話すより、正直に言って協力を仰いだ方がいいと判断したのだ。
アリアの頼みと諸々を考え、それが死の呪いであることは伏せてある。

「そんな……それではあまりにも……」

「何よそれ、最低じゃない」

とフィアナは怒りのあまり手に持ったサンドイッチを握り潰さんばかりの勢いだ。
パンからは既にハムとマヨネーズが飛び出て、レタスがへにゃりとなっている。

人の弱みにつけ込むなんて最低だと。
彼女の怒りはもっともだし、アリアもそう思う。けれどそれだけだとは思えなかった。

レヴィウスのいう通り、彼は策士で相当頭がきれる人物なのかもしれない。
しかしオズワルドがシェイトについて語る時、彼の瞳には間違いなく暖かさがあった。

方法は間違ってしまったかもしれない。けれど、オズワルドがシェイトを利用するとはどうしても思えないのだ。
アリアの願いがそう思い込ませているだけなのかもしれない。しかしオズワルドの瞳がどうしても忘れられなかった。

「ってなわけで協力して欲しい。アリアちゃんは勿論、フィアちゃんとマリウスも。さて、宴の始まりだ」

不思議そうな顔をする三人に、レヴィウスはにやりと微笑んだ。



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