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消したくない
「それで、貴方は私を迎えに来て下さったんですよね? どこに行くにしても、そろそろここを出た方がいいのではありませんか?」

話を終わらせるには少々乱暴だが、これしかない。夜会に連れて行くと言われてもシェイトは、そんな場に顔を出したことは一度としてなかった。

礼儀作法などは幼い頃、教えられたが、それでも気は進まない。
クロイツェル家に迎えられると聞いて覚悟がなかったわけではない。だがここまでオズワルドの行動が早いとも思わなかったのだ。

「それもそうか。まあ、まずは身支度だな」

素直に納得したレナートは部屋に置いてあったベルを手に取り、優雅な手つきでそれを鳴らした。
シェイトがオズワルドから用がある時に鳴らせと言われていたものだが、ものの数秒もしないうちに召し使いたちが入って来る。

「そいつに父からあずかった礼服を着せて身支度してやって。準備出来たら玄関に連れて来るんだ」

「畏まりました」

シェイトが戸惑っている間にレナートはテキパキと指示を出し、シェイトにウインクだけを残して部屋を出て行った。
それから直ぐに召し使いたちに隣の部屋に押し込まれる。

「あの、俺は自分で出来ますから……」

「いいえ。レナート様のご指示です。そうは参りません」

服を着るぐらい自分で出来る。着替えを手伝ってもらう必要はない。そう言おうとしたが、召し使いは頑として首を縦には振らなかった。
そうしている内に上着を脱がされ、シェイトは遂に抵抗を止めた。

髪も丁寧にとかされ、例えは悪いかもしれないが、まるで人形遊びに付き合わされている気分だった。

オズワルドが用意したシャツに上着には、細やかに編み上げられたレースが、カフスボタンには大粒のサファイアが取り付けられている。
まるで夜空を思わせる礼服は派手な刺繍こそないものの、着心地もよく、取り付けられたサファイアを考えると、相当な値段であることが窺い知れた。

ピアスだけは無理を言っていつもの魔具を付けたまま。
魔力制御に必要なのは勿論、今は自分とクリスを繋ぐ唯一のものだから。

女々しいかもしれないが、外したくなかった。外してしまえば僅かに残った繋がりでさえ、泡沫のように消えてしまいそうな気がして。

召し使いたちは着飾ったシェイトを見てほう、とため息のように感嘆の声を上げる。
それほどまでに彼は素晴らしかった。



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